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第3話

「でも、信じて。俺はいい夫になれるよ」

潤一は私にしっかり休むようにと言い残して病室を出て行った。

このやり取りだけで、私は全ての体力を使い果たしてしまった。

一眠りした後も、胸の苦しさは消えなかった。

私は車椅子に乗り、病室から外へ出た。

エレベーターで一階の庭へ行こうと思っていたが、ふと片隅に見慣れた弁当箱がベンチの上に置かれているのを目にした。

潤一が持ってきた弁当箱とそっくりだった。

眉をひそめ、無意識に車椅子を操り、その方向へと進んだ。

隣の病室は半開きになっており、中から柔らかく心地よい声が漏れてきた。

「こんなに長い間経っても、あなたが私の好きなかにを覚えていてくれたなんて」

「地震でちょっと怪我をしたけど、あなたが作ってくれたお粥を食べたら、良くなるわね」

その言葉を聞いた瞬間、私は体が硬直した。

まるで脳が何かに導かれるように、私はその声の主に近づいていった。

次の瞬間、私はその背中を見つけた。

それは、つい先ほど私の病室で愛を語っていたあの人だった。

「君は花火が好きだし、かにも好きだし、他にも好きなものは全部覚えているよ

だから、今度はもう二度と海外には行かないでほしい」

その瞬間、またかみなりが私の頭上に落ちたかのように感じた。

心は一瞬で粉々に砕けた。

冷たい空気が胸から内臓全体へと広がった。

だから、私が廃墟の下で閉じ込められていた時、彼は彼女のために愛の花火を上げていたのか。

私が病院に運ばれても、彼が来なかったのは、彼女も怪我をしていたから。

彼は私のかにアレルギーを忘れたのではなく、ただ彼女のためにかに粥を作っていただけ。

私はただのおまけだったのだ。

5.

病院での療養期間が過ぎ、私は退院することを決めた。

退院する前、医者は私に言った。

「耳にしっかりケアしてください。回復の見込みがなくても、悲しみすぎてはいけません。体に良くないですから」

私は医者に感謝し、婚約解消の合意書を用意し、家に戻って荷物をまとめるつもりだった。

その時、潤一から電話がかかってきた。

「なんで退院したんだ?」

私は靴を履き替えながら、淡々と言った。

「潤一、私たち別れましょう」

彼はしばらく沈黙した後、信じられないというように声を荒げた。

「それはどういう意味だ?冗談だろ?俺は同意しない!」

私は軽く息を吐き出し「冗談じゃないわ。帰ってきて婚約解消の書類にサインして」と言った。

彼は焦った様子で、

「君、家に戻ったのか?」

その声色を聞いて、私は胸に嫌な予感が広がった。

次の瞬間、寝室から現れたのは、あの魅惑的な女性の姿だった。

彼女は目がまだ覚めきっていないようで、眠そうな顔をしていた。

来訪者に気づかず、柔らかな声で言った。

「潤一、もう来たのね」

私はすぐに彼女が誰かを認識した。

出国して7年ぶりに帰国した黒目玲奈だ。

その瞬間、私は驚くほど冷静だった。

まるでこの瞬間が訪れることを予想していたかのように。

「今すぐ戻ってきて彼女のこと説明して」

私は静かに電話で言った。

電話を切る時、手が震え、何度もボタンを押し間違えた。

「美咲?」

私は顔を上げ、彼女を見ると、彼女は壁にもたれかかり、だるい目で私をじっくりと観察していた。

しばらくして、彼女は気にするそぶりもなく言った。

「君に断りもなく勝手にこの家に住み込み、君たちのベッドで寝て、君のパジャマを着てしまったけど、気にしないでね」

玲奈は襟を直し、首に残ったキスマークがはっきりと見えた。

その瞬間、私の頭は一瞬で真っ白になり、胸がまるで大きな手で強く締め付けられるようだった。

その痛みは、まるで溺れているかのように息ができなくなり、心の奥底から嫌悪感が込み上げてきた。

彼は私が普段寝ているベッドであれをして、彼女が私のパジャマを着ることを許したのだ。

潤一、君は彼女を囲うのにもう一軒の家を買うお金も出せないのか?

結局、私は彼らの遊びの一環に過ぎなかった。

私はその吐き気をこらえながら問いかけた。

「あなたは私たちが婚約したばかりだということを知っているの?」

彼女は聞いて、微かに眉を上げた。

そして、質問には答えずに逆に尋ねた。

「あなたたちが婚約したその日に、私がちょうど帰国したことを知っているの?」

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