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第2話

「ねえ、お嬢さん、なんで泣いてるの?」

耳元で聞こえた声は、再びぼんやりとしていた。

だから、廃墟の下での私の祈りは叶ったのだ。

地震が来た時、潤一は数年間想い続けた帰国した元カノのために花火を上げていた。

それなら、叶わないはずがない。

3.

病院で検査の結果が出た。

医者は、私の耳は「突発性難聴」だと言った。

地震中の強烈な衝撃波によって損傷したためだという。

回復するかどうかは、今後の観察が必要だと言われた。

聴力に影響が出ないように、補聴器をつけることになった。

その日、潤一が病室に現れた。

私はその時、ゆっくりとベッドに移動しようとしていた。

彼は私の姿を見ると、眉をひそめた。

弁当箱を横に置くと、数歩で私に近づき、私を横抱きに持ち上げた。

私は一瞬戸惑ったが、気づいた時にはすでにベッドに下ろされていた。

振り返ると、心配そうな彼の目と目が合った。

「足はまだ痛いのか?すまない、守れなかった」

潤一の口調は優しく、自責の念がこもっていた。

その眉目からの悲しみは作り物ではないように見えた。

だが、私の心には何とも言えない苦さが広がった。

「地震の時、もし僕が君のそばにいたら、こんな苦しみを君一人で背負わせることはなかった」

彼の声はかすれていて、手を伸ばして私の顔にそっと触れた。

彼は少し顔を傾け、昔のように私にキスをしようとした。

私は顔をそむけ、彼の動作は止まった。

「本当?」

私は小さな声で問い返した。

彼をじっと見つめ、乾いた喉で尋ねた。

「それなら、私が廃墟の下で押しつぶされていた時、あなたは何をしていたの?」

潤一の目が暗くなり、すぐに目を伏せ、その不自然さを隠した。

しばらくして、彼は私の手を握った。

「君が僕を恨んでいることはわかってる。本当に、君のそばにいなかったことを後悔している」

私は静かに言った。

「本当に後悔しているなら、私が病院に運ばれた日に来るべきだった」

彼は沈黙した。

その様子を見て、私の胸の苦しさはさらに強くなった。

「玲奈はいつ帰国したの?」

彼はその名前を聞いて、顔色を変えた。

ほとんど反射的に「そんなこと、なぜ聞くんだ?」と問い返してきた。

私はその質問に一瞬戸惑った。

その口調は、まるで私が彼女に何かするのではないかと恐れているかのようだった。

彼もその瞬間、気づいたようで、表情を変えた。

「僕が悪いんだ、そんな口調で言うべきではなかった」

彼は頭を下げて、私の手にキスをし、「ただ、君にはしっかり治療に専念してほしい。ほかのことに心を乱されてはいけない」そう言いながら、彼はテーブルから持ってきた弁当箱を取り出した。

蓋を開けると、香ばしい匂いが広がった。

彼のその姿を見て、私の心にはまるでレモンの汁を注がれたような感覚が広がった。

声は穏やかで、少し震えていた。

「だから、あなたが彼女のために花火を上げていた時、私から何度も電話がかかってきたことに気づいたのね

その瞬間、私のことを『関係のない人』だと思ったの?」

4.

私の言葉を聞いて、潤一の体がこわばった。

声が少し固くなった。

「君はすべてを知っているのか?」

「街中の人たちが知っているわ。みんな、あなたたちの永遠の幸せを願っている」

私はほぼ平静にそう言った。

彼は少し眉をひそめ、急いで弁明し始めた。

「そういうことじゃないんだ

友人に招かれて行った時、初めて彼女の歓迎会だと知った。花火は、ゲームに負けた罰で上げただけなんだ」

彼は焦って両手を使って説明しようとした。

「僕たちは7年間も愛し合ってきたし、もう婚約もしているんだ」

「僕を信じてくれ、僕は君を愛しているんだ」

私はただ彼が持ってきた弁当箱を静かに見つめていた。

耳元の彼の声は、まるで歪んで聞こえているかのようだった。

しばらくして、私は息を軽く吐いた。

目に熱い涙がたまるのをこらえながら私が言った。

「潤一、7年間、私がかにアレルギーだって知っているはずよ」

彼が持ってきたのはかに粥だった。

彼はかみなりに打たれたかのように動きを止めた。

すぐに彼は反応し、弁当箱の蓋を閉めた。

「すまない。最近、忙しくてぼんやりしていたんだ」

「家に戻って、ほかのご飯を作ってくるから、それでいいか?」

そう言って、彼はいつものように私の耳をつまんだ。

私は何も言わなかったが、頭がずきずきと痛み始めた。

潤一は平然とした顔で私の額にキスをし、低い真剣な声で言った。

「この数年、僕にも悪いところがあったんだ。もう少し許してくれないか」

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