共有

第5話

「翔太、体調はどうだい?」

「うん、だいぶ良くなったよ。ところで、僕を助けてくれた人って誰なの?直接お礼を言いたいんだ。命を救ってくれたんだから」

お兄ちゃんは少し弱々しい声で、父にそう言った。

父はその言葉を聞いて、一瞬だけ表情が変化したものの、笑顔を浮かべて答えた。

「翔太はただ、しっかり体を治すことだけを考えればいいんだ。お礼はもう言っておいたし、彼女も君を助けられて喜んでいるよ」

お兄ちゃんはその言葉を聞いて、ほっとしたようにうなずいた。清らかな顔に安堵の色が浮かんだ。

「じゃあ、退院したら、ちゃんとお礼を言うよ。命を救ってくれたんだから」

その光景を見ながら、私の心は締めつけられ、言葉にならない苦しさが胸に押し寄せた。私がいなくても、彼らの生活は何も変わらない。むしろ、以前よりも幸せそうだった。

渡辺おじさんは、周りの反対を押し切り、三日後に私の葬式を行った。後ろめたさからか、あるいは申し訳なさからか、父もその場に姿を見せた。

「これは、私の娘である渡辺培の葬式です。彼女は不幸な事故で命を落としました。私は彼女がもう一つの世界で幸せで、安らかであることを願います」

渡辺おじさんは、赤い目をしながらそう言い、会場の全員が涙を流していた。ただ一人、父だけが無表情で、握り締めた拳が震えていたのを見た。

渡辺おじさんは父をじっと見つめて、こう言った。「この子は生前幸せを味わっていませんでした。父として本当に申し訳なく思います。彼女が私を恨まないことを願います」

しかし、父は相変わらず無表情で、その冷たく張り詰めた横顔は、いつもと変わらない薄情さと冷酷さに包まれていた。

私は既に死んでいるというのに、なぜかまだ息が詰まるような感覚が消えなかった。喉に何かが引っかかっているようで、涙があふれ出そうだった。

「お父さん、なぜここにいるの?」

突然、聞き慣れた声が響いた。それはお兄ちゃんの声だった。

私は驚いて振り返った。お兄ちゃんは青白い顔をしていて、唇も血の気がなかった。彼が病院の患者服を着ていて、周りの人々の中でひときわ目立っていた。

父もその声に驚いて振り向いた。

「翔太!なぜここに来た?早く病室に戻って休みなさい!」

父は慌てて言ったが、お兄ちゃんは一歩一歩、目の前の棺桶に向かって歩いていった。しかし父は直接彼を止めた。

ロックされた本
この本をアプリで読み続ける

関連チャプター

最新チャプター

DMCA.com Protection Status