共有

第11話

ヒロ(二)

悠香が亡くなった後、彼女の母親は精神病院に入院した。

周囲の人々はみな彼女に同情していた。続けざまに二人の子供を失ったのだからと。

しかし、俺には同情なんて微塵も湧かなかった。悠香が生きていた頃に味わったあの苦しみを、彼女の母親も当然、味わうべきだったからだ。

俺はさらに、悠香が残した日記の一冊を、彼女の父親に送りつけた。

悠香の心の奥底で、最も愛していたのは父親だったことを俺は知っていた。

ある夜、悠香の父親が俺を訪ねてきた。

四十代の男が、たった一夜で髪が真っ白になっていた。

震える体で、彼は俺に訊ねた。「悠香は、どうやって生きてきたのか」と。

俺は、悠香の生活をありのままに伝えた。

トイレに隠していたナイフ、

川辺に灰となって積もる吸い殻、

迷信的な儀式で彼女に掛けられた赤い布、

尿で濡れた新幹線の座席。

彼は震えながら、まるで子供のように泣き出した。

「悠香に対して、本当にひどいことをしてしまった。

俺が間違っていた。

悠香の兄を失った悲しみを、悠香のせいにするべきではなかった」

だが、彼の涙を見ていると、俺の胸にはただ嘲笑と冷笑が浮かぶばかりだった。

彼の涙なんて、俺には所詮偽物に過ぎない。

俺は彼を決して許さない。

悠香もきっと彼を許さないだろう。
ロックされたチャプター
この本をアプリで読み続ける

関連チャプター

最新チャプター

DMCA.com Protection Status