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第2話

兄が亡くなったのは、私と母が故郷に帰る途中のことだった。

あのとき、私は兄と小川のそばで釣りごっこをしていて、ふと足を滑らせ川に落ちてしまった。

兄は私を助けようと、迷いもなく川に飛び込んだ。

泳ぎが得意でもなかった兄に救われた私は無事だったが、兄はそのまま命を落とした。

それ以来、母は私を憎むようになった。

母だけでなく、祖父も祖母も父も、皆が私を責めた。

今では、新幹線で帰省すれば6時間で済む。かつてのように、緑の普通列車に18時間も揺られる必要はない。

その長い道のりで、母に18時間も地面に跪かされていた。

しかし、「あと30分で到着です」とアナウンスが流れたとき。

私は無意識のうちに体がこわばり、動悸が止まらなかった。

そんなとき、トイレに閉じこもる私を母が見つけた。

母は冷たい目で私を見下ろし、清潔な服を投げつけると、勢いよくトイレのドアを閉めた。

「さっさと着替えなさい。もう一度でもお漏らししたら、ただじゃ済まさないからね」

私は震えながら、無意識にリュックに入っている果物ナイフに手を伸ばしていた。

自分の体に再び漏らしてしまうのが怖くて、そのナイフを取り出していたのだ。

やがてトイレを出たとき、顔は青ざめ、指先は冷たくなっていた。

けれども母は、私の様子に気づくことなく、いつも通り私を連れて駅を出た。

木漏れ日が母の背中にまだらに落ち、ゆらゆらと揺れていた。

私はその背中をじっと見つめ、リュックのストラップをきつく握りしめた。

そのとき、祖父の三輪車がガタガタと音を立てて近づき、私が反応する間もなく、祖父の乾いた手が私の髪をしっかりと掴んだ。

「だから言っただろう、彼女の髪を丸坊主にしろって。なぜ言うことを聞かないんだ」

「そのせいで剛史が期末テストで100点を取れなかったんだ」

祖父は、怒りをそのままぶつけるように私の背中を強く蹴りつけた。

激しい痛みが背中に広がり、

私は思わず震えながら身を丸めて、母の後ろに隠れた。

けれども母は、私の髪を乱暴に引っつかみ、祖父の前に引きずり出した。

「お義父さん、本当に私のせいじゃないんです。学校が坊主頭を禁止しているんですよ」

「坊主にできないって?それなら彼女に何の本を読ませるつもりなんだ。この忌々しい女め、海翔を死なせたことに加え、今度は剛史まで害しようとしているのか」

「言っておくぞ、剛史は青葉家で一番有望な子供だ。青葉家の血筋を引き継ぐのはあいつなんだ」

「もういい、今回帰ったら、こいつを退学させなさい。もしそれができないなら、息子と離婚しなさい」

祖父の言葉に、母の顔色が急に青ざめた。

母は一瞬私に目を向けたが、その目には明らかな怒りが宿っていた。

「悠香、いつまで私に迷惑をかけるつもりなの?」

母の顔に浮かぶ嫌悪の表情を見て、私は息を飲んだ。何も言えず、ただ後ずさりすることしかできなかった。

私自身、いつまで母に迷惑をかけ続けるのか、答えがわからないままだった。

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