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第10話

ヒロ(一)

悠香は死んだ。

俺の目の前で、彼女は息を引き取った。

彼女の身体は鮮やかな紅に染まり、

最後に浮かべていた薄い微笑みが静かに消えていった。その笑みを見た俺は、絶望的に泣き叫んだ。

自分の無力さが憎かった。彼女の命が尽きるその瞬間に、なぜ俺は彼女を引き止められなかったのか。

異変に気づいていたのに、なぜ。

悠香と出会ったのは十年前だ。全身に青あざをまとって天橋に座り、足をぶらつかせながら鼻歌を歌っていたあの時が始まりだった。

俺は、彼女が川に飛び込むのではと心配になり、慌てて彼女を手すりから抱き下ろした。

しかし、彼女はただ笑って肩を叩き、こう言ったんだ。

「あなたの名前は?そんなに心配するなよ。私、川には飛び込まないよ。だって、私はうちのだった一人の子供なんだから、死ぬわけにはいかないんだ」

彼女の笑顔を見ながら、なぜか涙が込み上げてくるのを感じた。

俺はそこで知ったんだ。

世の中には、親のいない俺以上に不幸な人がいるんだと。

その後、俺は時々悠香に出会うようになった。

母親のために食事を運び、麻雀クラブへと足を運ぶ姿を何度も見かけた。

負けを喰らった母親が熱々の麺を彼女の顔に叩きつけるのもまた、目の前で見た。

その時初めて、親がいることが必ずしも幸せではないのだと知った。

ある日、悠香が団地で宿題をしていた時、俺はつい声をかけてしまった。

彼女は本当に賢くて、俺が何も言う前にこう言った。

「さっき見てたでしょう?大丈夫だよ。母さんはただ、兄が亡くなってから心がとても辛くなっただけなんだ」

彼女の淡々とした顔を見て、俺は拳をぎゅっと握りしめた。

さっき、彼女の母親が熱々の麺を彼女にこぼしただけじゃなく、

彼女自身が腕にボールペンを突き立てたのを見たからだ。

しかし、俺はそれをあえて指摘しなかった。

人にはそれぞれ心の奥底に傷がある。彼女にも俺にも、きっと。

それから俺は、昔の同級生に話を聞いて、悠香のことをもっと知った。

彼女は学年トップの成績を誇り、周囲の男子からも注目される存在で、笑顔が愛らしく、未来を期待されていた。

そんな彼女に近づくのが恐ろしかった。

でも、悠香は何度も俺の前に現れ、

ビールを飲もう、タバコを吸おうと誘ってきた。

俺は、彼女が腕をまた傷つけるのが嫌で、彼女の頼みを断る
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