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第002話 恐怖の始まり

まさか、彼の目的がこれだったとは!

事の発端は、先週のことに遡る。

その週、私は弁護士から電話を受け取った。遠くに住む叔母が亡くなったという知らせだった。

叔母は子供を持たず、亡くなる前に遺言を残しており、唯一の親族である私に全ての遺産を譲ると書かれていた。

叔母はここ数年、商売でかなりの富を築き、残された遺産はなんと数千万にものぼる。

弁護士が急いでやってきて、叔母のキャッシュカードと一通の手紙を私に手渡した。

その手紙には、叔母がこう念を押していた。

「お金を引き出すときは、あなた自身が行くこと。絶対に他の誰にも知らせてはいけない。夫の中村浩にもだめだ」

不運なことに、その手紙を夫の弟、中村光が見てしまい、さらにこのことを夫と妹の中村美咲にも話してしまった。

その後、浩と光は毎日このことで口論を繰り返すようになった。

浩は、このお金は夫婦の共有財産と考え、光や美咲には関係がないと言った。

一方、光は私もこの家の一員だから、叔母の遺産は家族全員で分けるべきだと主張した。

普段はほとんど口を開かない光が、これほどまでに激しく浩と争うのを見て、私は怖くなり、慌ててその場を取り繕おうとした。

「もうやめて!この四億円の遺産、私が半分を持っていくから、残りの二億円を3人で分けたらどう?」

すると光は皮肉な笑みを浮かべて言った。

「一人六千万円として、二千万円が余るぞ。それをどう分けるんだ?」

それ以来、家の中の雰囲気はすっかり変わってしまった。

浩と光は毎日のように喧嘩をし、何度か殴り合いになりかけたこともあった。

また、私は何度も三人の兄弟が私の部屋中をひっくり返して探り、こっそりと私にキャッシュカードの暗証番号を聞き出そうとする場面に遭った。

万が一のことを考えて、私はキャッシュカードを隠し、暗証番号も誰にも話さないと決めた。

最後には、浩の懇願を受けて、お金を引き出すときには彼らを連れて行くと約束することになった。

待って!

まるで雷に打たれたかのように、突然ひらめいた。

中村浩と中村光は双子の兄弟で、顔も声もまったく同じだ。

じゃあ、目の前にいるこの男......まさか、弟の光?

そうに違いない!

浩はすでに何かに巻き込まれ、そして何かが起こったから、未来の私が今の私にメッセージを送ってきた。

今は彼に気づかれないよう、しばらくはこの芝居に付き合うしかない。

「930......ああっ!」

私は突然、頭を抱えて苦しむふりをし、ベッドの上で転げ回った。

光は驚いて後ずさりし、その拍子にベッドサイドのコップを倒して割ってしまった。

これで十分だろうと思い、私はやっと悲鳴を止め、ベッドに横たわりながら荒い息をついた。

「この薬、何? 飲んだら急に頭が痛くなったんだけど、これどういうこと?」

私がそう問いかけると、目の前の男は焦った様子で、友人が薦めてくれた特効薬だと言い訳をした。

「素人が薦めた薬なんて、やっぱり信用できないわね!」

私は心の中で冷ややかに笑った。

さっきは医者が新しく処方した新薬だと言っていたのに、今度は友人が薦めた特効薬だなんて。

言い訳すらまともにできないなんて!

光は左手でトレイを持ち、右手で床に散らばったガラスの破片を拾い始め、黙り込んでいた。

片付けが終わると、「今夜は仕事があるから書斎で残業する」と言って部屋を出ていった。

私は微笑んで頷き、目を閉じて休むふりをした。

光は、私が何も怪しんでいないと思ったのか、安心した様子で部屋を去っていった。

光が部屋を出て行った後、私はすぐに携帯を取り出し、震える指でメッセージを打ち込んだ。「あなたは未来の私なの?」

今度はすぐに匿名のメッセージが返ってきた。

その内容は簡単で、たった一文字だった――「うん」。

頭が一気に真っ白になり、思考が止まった。

深夜、私はこっそりと光の住む地下室へ向かった。

入口に近づくと、ドアの向こうから微かに血の匂いが漂ってくるのを感じた。

試しに軽くノックをしたが、中からは何の反応もなかった。

そこで私は、持っていた合鍵を使ってそっとドアを開けた。

扉が開いた瞬間、目の前の光景に思わず叫びそうになり、慌てて手で口を押さえた。

地下室の床には、男がうつ伏せに倒れていた。背中にはハサミが突き刺さっており、血がカーペット一面に広がり、すでに乾いている。

顔は横を向いており、入口を見つめていた――中村浩だ!

その光景を見て、胃がひっくり返るような感覚に襲われ、吐き気がこみ上げた。

幸いまだ食事をしていなかったからよかった。もし食べていたら、今頃はここで吐き散らしていただろう

私は壁にもたれて座り込み、なんとか気を落ち着けてから、勇気を振り絞って遺体に近づいた。

中村浩の体からは微かな腐敗の臭いが漂い、すでに死後かなりの時間が経っていることが分かった。

彼の右手首には腕時計がはめられており、針は10時35分で止まっていた。左手は固く握られ、何かを掴んでいるようだった。

私は彼の左手をこじ開け、手の中に一枚の破れた紙が握られているのを見つけた。

その紙には「X」が書かれていた。英字のようにも、単なる印にも見える。

これをやったのは、きっと中村光だ!

しかしその時、遺体の近くに社員証が落ちているのが目に入った。

私はそれを拾い上げ、社員証に書かれた名前を見た時、頭がクラクラしてきた。

そこに書かれていた名前は、なんと中村光の名前だった!

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