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第006話 信頼

浩は苦しそうに腹を押さえ、血が服にじわじわと染み込んでいた。

その光景を目の当たりにした美咲は、呆然と立ち尽くし、手にしていた血まみれのナイフを地面に落とした。

「私……私、そんなつもりじゃなかった!」

彼女は頭を抱え、パニックに陥ったような顔で震えていた。まるで、自分が大切な兄を傷つけたことを信じられないかのように。

私は慌てて浩を抱きしめ、涙が「すっ」とこぼれ落ちた。

「あなた!大丈夫?」

彼はかすれた声で言った。

「俺は......もう、ダメかもしれない。早く逃げて......」

言葉を終える間もなく、彼はそのまま目を閉じ、息を引き取った。

「いやあああ!」

美咲は、自分が浩を殺してしまったという事実に耐えられなかったのか、叫び声を上げながらドアを開けて逃げ出していった。

私は呆然と浩を抱きしめ、涙が止めどなく溢れた。

「あなた......」

まさかの次の瞬間、浩が再び目を開けた。

私は驚いて飛び退き、「幽霊だ!」と叫んでしまった。

彼は顔をしかめ、腹を押さえながら、苛立たしげに弱い声で私を睨みつけた。

「幽霊だって?バカ言うな!俺は死んでない!」

私は唖然としてしまい、恐る恐る指で彼をつついてみた。体はまだ柔らかく、温かさも残っている。どうやら本当に死んでいないらしい。

「でもさっき......」

「さっきは美咲を騙してただけだよ。そうしないとお前をどうやって助けるんだ?」

浩は血の滲む腹を押さえながら、痛そうに息を吸い込んだ。「でも、この一撃はマジで痛かったんだからな」

私は急いでポケットを探り、スマホを取り出して救急車を呼ぼうとしたが、いくら探しても見つからない。

その時になってようやく思い出した。私たちのスマホは、美咲に奪われてしまったのだ。他に連絡を取る手段もない。

今の私たちは、まさに天に助けを求めても届かず、地に叫んでも応えはない状態だった。

浩の家は、郊外の荒れ地に建てられた違法建築だ。普段は車が通ることなどほとんどない。

以前、どうして市内に家を買わないのかと彼に聞いたことがあった。彼は「弟や妹の面倒を見るためだよ。市内じゃ、あいつらも気を使うだろうからね」と説明してくれた。

だから、私たちが普段使う交通手段は、浩の車だけだった。

私はこっそり一階まで降り、窓の外をそっと覗き込んだ。すると
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