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第508話

 清次は笑った。本当に狡い。

 由佳は彼を一瞥し、無視して山口沙織の元へ向かった。

 ……

 由佳と山口沙織は午後のほとんどを温泉で過ごし、その後荷物をまとめて出発した。

 帰り道、海斗の倉庫の前を通りかかったとき、由佳は無意識にちらっとそちらを見た。

 颯太と海斗との出会いは、最初から彼女の計画の一部だった。

 彼の前で海斗の正体と過去のいざこざを明かすためのきっかけが必要だったのだ。

 倉庫はその目的を達成するのに最適な場所だった。そこは海斗の財産問題をも浮き彫りにできる場所だからだ。

 そのため彼女は何人かのチンピラを雇い、その「事故」を仕組んだ。

 今、彼女は優輝がヤンゴンにいることを知っている。

 颯太を通じて陽翔と優輝の関係を調べ、その足跡をつかむ可能性も考えたが、指名する証人が出てこない可能性もある。

 ましてや、まだ颯太の調査は結果が出ておらず、もし何かを掴んでも、その手がかりは既に消されているかもしれない。

 だから彼女は二重の準備をする必要があり、優輝を何とかして国内に連れ戻し、警察に引き渡す手を考えなければならない。

 異国で人を捕まえるのは簡単なことではなく、優輝に気づかれないようにする必要がある。

 由佳は額を揉み、ふと顔を上げると、後部座席のミラー越しに清次が前方を見据え、真剣に運転しているのが目に入った。

 彼女の視線は後部座席のミラーから清次の体に移った。

 由佳の位置から見る清次の顔は、顎のラインが鋭く、首筋には淡い青みが差していて清潔感があり、肩幅が広く、スーツをしっかりと引き立てていた。

大きな手がハンドルを握り、腕の筋肉が力強く浮き上がっている。

 すべてが彼女の好みにぴったりだった。

 もし過去のことをすべて忘れて、清次にもう一度出会ったとしたら、彼女はまた彼を好きになるかもしれない。

「清次?」

 静かな車内で由佳が彼の名前を呼んだ。

 「ん?」清次は後部座席のミラーから彼女を見つめ、二人の視線が合った。

 「山口氏グループって、東南アジアにも支社があったっけ?」

 彼女は、清次がグループの社長ではないにしても、まだ人脈を持っていることを知っていた。

 「どうして急にそんなこと聞くんだ?」清次は眉を上げて尋ねた。

 由佳は、もう少しで口を滑らせそうになったが、思い直して「
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