共有

第205話

「もしもし、山口社長ですか?山口社長?」

電話をかけてきたのは山本さんだった。

電話が繋がったが、向こうからは何の反応もなく、山本さんは胸騒ぎを覚えた。

三度目の「山口社長」と呼びかけたところで、ようやく向こうから返事があった。

「山本さん、こんな時間にどうしたんですか?」

山口清次は主寝室のドアを慎重に閉め、ようやく返答した。

「社長、もうお帰りになったんですね?林特別補佐員たちから聞きましたが、ニューヨークの方でまた問題が発生し、部下がうまく対処できずに混乱を招いたそうですね。山口社長のおかげで、迅速な対応ができ、大事には至らなかったと伺っています。山口社長はまさに会社の柱です」山本さんはいくつかお世辞を述べた。

山口清次は皮肉な笑みを浮かべた。「山本さん、本題に入ってください」

これを聞いて、山本さんはようやく要件を説明し始めた。「機密漏洩の件で、心配のあまり由佳に無礼を働いてしまいました。私は会社のことを第一に考えておりましたが、もし不適切な点があれば、山口社長から由佳にお伝えいただければ幸いです」

彼女を家に連れ帰ったばかりで、山本さんからの電話がかかってきたのは、明らかに彼が山口清次の動向を見張っていた証拠だ。

もし山本さんが本当に自分の行動に問題があったと感じていたのなら、この電話は由佳本人に直接かけるべきであった。それをわざわざ山口清次にかけてくるのは、山口清次の態度を探るために他ならない。

山口清次がこの件を気に留めていないと分かれば、万事うまくいく。

もし山口清次がこの件に関心を持っているのであれば、自分の立場を守るために山口清次の前で自らの忠誠心を示そうとしたのだ。

「山本さんは心配しすぎです。山本さんの行動はすべて会社の利益のためであり、職務を全うしただけです。由佳も道理をわきまえていますから、きっと山本さんのことを理解してくれるでしょう」山口清次は笑った。

その笑みを聞いた山本さんは背中に冷たいものを感じた。

「それはそうですが、でも、由佳さんを不快にさせたことに変わりはありません……謝罪するのは当然のことです」

「由佳に謝罪するなら、どうして私に電話をかけてきたんですか?」

「……」

山口清次の態度は頑なで、山本さんの行動を記憶に留めたことは明らかだった。

これは山口清次が由佳をひいきにしているという
ロックされたチャプター
この本をアプリで読み続ける

関連チャプター

最新チャプター

DMCA.com Protection Status