第9話

「詩織はどうしたの？兄が結婚するのに、彼女は帰国しないのか？」

彼はいつも自分の嫌悪感を抑える方法を知っている。

父さんの前では、彼はいつも優しい義兄であり、母に対しては礼儀正しい義理の息子だ。

「詩織？彼女は私のメッセージに返信していない。この子ったら、海外に行っても連絡もせず、電話もかけてこない」

母は顔に心配の色を見せたが、すぐにこれは小舟茂の結婚式だと気づき、慌てて補足した。

「でも彩実が言っていた、詩織は今忙しくて、教授に気に入ってもらって新しいプロジェクトを引き受けたんだって！」

私は母の顔に見える喜びを見て、少し笑みを浮かべた。

この嘘がどれくらい続くのかはわからないが、少しでも、1日遅れても十分だ。

「そうなの？当時、詩織に俺の介添えを頼もうと思っていたけど、彼女は連絡も返してこなかった」

男の額の前の髪が目の奥を隠し、口調は落ち込んでいた。

母は急いで私のためにいいことを言い、兄妹の間にせっかく積み重ねた情を壊さないように気を使った。

「この子は独立しすぎているから、兄として怒らないでね」

「わかった、母さん」

彼は一見謙虚で礼儀正しいが、実際には嘘ばかりを言っている。

私は彼の後ろについて何日も過ごしてきたが、彼から一度もメッセージをもらったことはなかった。

まあ、私が返信することはないが。

小舟茂は軽く挨拶を交わした後、二階に立ってゲストを見渡した。

突然、彼の目が輝いた。

私は彼の視線を追って見ると、お腹が明らかに膨らんだ志摩彩実がいた。

「妊娠していたのはお前か？あいつじゃなくて？」

「何を言っているの？」

志摩彩実は小舟茂を斜めに見て、口元に嘲笑を浮かべた。

「あいつはどうしたの？彼女は海外に行ったのに、お前はどうして一緒に行かなかった？」

「詩織のこと？」

志摩彩実は考え込むような笑みを浮かべた。

次第に、彼女は何かを理解したようで、口元をあげた、「小舟茂、もう詩織には会えないけど、嬉しい？」と聞いた。

「は？好きなだけ遠くへ行けばいい！そんなことで俺が刺激されると思っているのか？道理であいつと仲良くなれるものだ、同じく第三者の娘だからな！」

小舟茂は再び右手を握りしめ、

「あいつが突然帰国して俺の結婚式を台無しにするのが心配なだけだ」

「安心して、彼女はもう帰ってこない」

志