第3話

彼女は精緻で華やかなドレスをまとい、肌は透き通るように美しかった。

一方で、私は髪がパサパサで、顔色も悪く、手にはたくさんのタコができていた。

瞬間的に自己嫌悪が湧き上がり、私は田中さんの後ろに隠れた。

それでも、実の母親からの嫌悪感に満ちた視線を感じた。

「とりあえず、ここに住みなさい。何か足りないものがあったら言って」

彼女はそう言うだけで、佳奈子の手を引いて二階へと上がって行った。

それから、私は前田家での生活を、まるで息が詰まるように感じる日々を過ごした。

私は透明人間のように扱われ、誰にも気にされず、誰も私に関心を持ってくれなかった。

彼女たちは私がこの家の静寂を壊したと思っていた。

でも、本当は私こそが彼女の実の娘なのに。

なぜこんな仕打ちを受けるのだろう？

この問いを何年も考えたけれど、どうしても答えが出なかった。

でも、今はもう疲れてしまった。すべてに諦めがついた。

答えが出ないなら、もう考えないことにしよう。

世の中には、すべてに答えがあるわけじゃない。

翌日、私は病院に母を見舞いに行った。

母はまだ昏睡状態のままだった。

私は彼女のベッドのそばに座り、彼女の手を握った。

少しでも温もりを感じたかった。

でも、彼女の手も冷たかった。

「お母さん、ここ数年、本当に疲れたよ」

私は彼女の眠っている顔を見つめた。

「お母さん、いつ目を覚ましてくれるの？目が覚めたら、一緒に別の街へ行こう」

「もう決めてるんだ。少し貯金もできたし、小さな家を買って、小さな花屋を開いて、穏やかに暮らそう、ね？」

私は涙をぬぐった。

「お母さんが目を覚ましてくれさえすれば......何だってするよ」

突然、電話が鳴った。

それは佳奈子からだった。

「お姉ちゃん？聞こえてる？」

「裕太が急に吐き続けてるの。どうしたらいいの？」

「達也も家にいないし、家政婦さんもどうしたらいいかわからなくて......」

裕太がそばで叫んでいた。

「佳奈子ママ、僕、この女に世話されたくない！パパが言ってたんだ、もう彼女は僕のママじゃないって！」

彼はそう言って、また吐き始めた。

私は苦笑して言った。

「彼にマンゴーを食べさせたんじゃない？」

「さっきマンゴーケーキを食べたんだけど......裕太、マンゴーアレルギーなの！？どうして言ってくれなかったの？」

佳奈子は焦って責めた。

裕太はしょんぼりと言った。

「だって、これは佳奈子おばさんが買ってくれたんだもん。だから大事にしたくて......」

佳奈子は思わず笑った。

「いくら私のことが好きでも、アレルギーのものを食べちゃダメでしょ！もう、あなたって本当に......」

裕太の言葉を聞いて、私はしばらく沈黙した。

思い出したのは、今年の裕太の誕生日に、彼が自分で私の作ったケーキを壊した時のことだ。

彼は私が作ったケーキが醜いと言って、食卓に出す価値がないと怒ったのだ。

「裕太の部屋のベッドサイドテーブルの二段目に、アレルギーの薬があるから、それをまず飲ませて」

「それから、病院に行って坂本先生に診てもらって。彼は裕太の叔父さんだから、ついでにちゃんと検査してもらってね」

佳奈子はすぐにメモを取った。

「ありがとう、お姉ちゃん。すぐに裕太を連れて行くわ」

「それから」

私は一瞬詰まったが、それでも言葉を続けた。

「私、達也と離婚したの。裕太ももう私の子じゃない」

「これからは、もう連絡しないで」

そう言って、私は佳奈子が返事をする前に電話を切った。

そして、彼女と達也の番号をブロックした。

世界が少し静かになった。

睡魔が襲ってきて、私は母の隣で眠りについた。

次に目を覚ますと、朝になっていた。

今日は、達也と離婚の手続きをしに行く日だ。

私は書類を揃えて、役所へ向かい、玄関で達也が来るのを待った。

しばらくすると、彼の車が私の前に止まった。

彼は怒りをあらわにして車から降りてきた。