第2話

彼女は私と私の荷物を見ると、眉をひそめた。

「達也に追い出されたの？」

私は否定しなかった。

佳奈子は一瞬困ったような顔をして、私の荷物を持っていた手を引っ込めた。

「お姉ちゃん、達也さんと何か誤解でもあったの？」

「今日の午後、彼に会ったんだけど、普通に元気だったよ」

「彼の機嫌も良かったし、裕太だって......」

彼女は自分が余計なことを言ってしまったことに気付き、急いで口を押さえた。そして、おそるおそる私を伺うように見た。

「お姉ちゃん、私、わざと達也さんに会いに行ったわけじゃないの。本当に、裕太が私に会いたがって、仕方なく行っただけなの......」

私は無理に笑ってみせた。「そんなこと、気にしないで」

美月はその会話を聞いて、おおよそ何があったのか察したようだった。

そして彼女は言った。

「佳奈子、先に二階に行きなさい。私は美和と少し話をするわ」

佳奈子はしおらしく返事をして、田中さんが彼女を連れて行った。

広々としたリビングには、私と美月の二人だけが残った。

彼女は私に座るように促した。

私はまるで針のむしろに座るような気持ちでソファに腰掛けた。

彼女は焦ることなく、ゆっくりとお茶を入れ、時間をかけてそれを口に運んでいた。

私がようやく我慢できなくなりそうになった頃、彼女は口を開いた。

「達也を引き留められなかったのね」

「今日は挨拶に来ただけです。あなたの要求は全部果たしました。もう私を解放してください」

私の態度はこれまでにないほど決然としていた。

美月の表情には、苛立ちが浮かんでいた。

「あなたの養母は、どうやってあなたを育てたのかしら？まったく礼儀知らずね」

私は拳を強く握りしめた。手が自然に震えた。

「それから、母のこと......そして高橋さんの件も、どうか約束を守ってください」

彼女は眉をひそめた。

「約束？私が何を約束したと言うの？」

私は信じられない思いで彼女を見つめた。

「あなたは言ったじゃないですか。私が達也と結婚して、前田家に純粋な血統の子どもを産めば、母の治療を続けさせてくれるって」

「でも、裕太はどうするの？」

彼女はお茶を飲む手を止めた。

「裕太はあなたが嫌いなんでしょ？だったら、彼は父親を選ぶはずよ。前田家が彼をどうやって引き取るの？」

私は言葉を失った。

しばらくの沈黙の後、私はようやく口を開いた。

「裕太は佳奈子が大好きなんです。彼が彼女にお母さんになってほしいと、私の耳で聞きました」

「もし佳奈子と達也が再婚すれば、裕太はまた前田家の子どもになるでしょう」

「それが、あなたたち全員が望んでいることです」

この言葉を口にすることで、まるで心の中にまた一つ、鋭いナイフが突き立てられたかのようだった。

母親として一番辛いのは、自分の子どもが自分を愛していないこと。

だからこそ、私は自分の愛も、少しずつ引き戻していこうと思う。

そうすれば、心が痛むことも少なくなるかもしれない。

美月との話し合いの後、彼女は最終的に私と達也の離婚に同意した。

彼女は気軽に言った。

「そうだ、お前の養母の病状が最近少し良くなって、会いたがっているそうよ」

「分かりました」

私はぼんやりと、前田家に戻ってきた日のことを思い出した。

あの頃、私は養母を憎んでいた。

なぜ私を捨てて、こんな冷たい家に送り込んだのかと。

しかし後になって、彼女が病気だったことを知った。

彼女は治療するお金もなく、私を育てることもできなかった。

そして、ついに彼女は私の実の母親を見つけ、私を彼女に託すことにした。

しかし、実の母親は私を愛してはくれなかった。

今でも覚えている。あの午後、田中さんに連れられて家に入った時のことを。

そこには、目を真っ赤にしている佳奈子がいた。

「あなたが、私のお姉ちゃん？」

彼女の声は震えていた。

私は小さい頃、母と一緒に露店で商売をして、多くの様々な人々と接してきた。

だから、彼女が私の来訪を歓迎していないことが、一目で分かった。