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第5話

父親の電話に耳を傾けるや否や、森下慎也の顔色は一気に険しくなった。

その声は耳を劈くような大音量で、桜井もただならぬ様子に気が付いた。

「もしかして松本さん、何か起こりませんか。病院に行ってみましょう」

森下慎也は喉を詰まらせながらも、何とか平静を装って答えた。

「父さん、冗談でしょ。松下はにそんなこと......」

森下の父が怒鳴りつけるように命じて、電話を切った。

「今すぐ病院に来い!」

それを聞いた森下慎也はその場で呆然と立ち尽くした。

その光景を見た桜井は森下にそっと声をかけた。

「とにかく、一度行ってみましょう。多分、怪我をしただけ、きっとそうです」

「慎也のご両親も松下さんのことを本当に好きです。だからきっと、彼女を助けたいと思って、そう言います」

桜井の言葉に、森下慎也の表情は少し和らいだ。

「あなたの言う通り、松下は私の両親に何を吹き込んだのか、こんなことまで協力させます」

「ただ階段から転んだだけで、せいぜい骨折や脳震盪くらいでしょう」

彼の言い方を聞いた私は頭を振って苦笑いした。

桜井玲奈はたった三段の高さから転んだだけだから、もちろん死ぬことはなかった。

でも、私は十段の高さから落ち、頭を階段にぶつけ、重々しく転がり落ちてきた。

ただ、彼女がタイミングを見計らって、倒れるふりをしたからだ。

森下慎也が駆けつけた時、目にしたのは、私と桜井玲奈が同時に転倒する場面だけだった。

だから、彼は考えることもなく、桜井玲奈のところへ駆け寄った。

でも、私の体にある傷や流れ出る血は、全て森下慎也に無視された。

そのとき、私は生き延びる希望を抱いていた。

しかし、救急車を待っている間に、その希望は私の血と共に徐々に流れ出ていった。

私はこんなにも苦しく、絶望的に死んだ。

それでも森下慎也は、今まで私が彼を騙していると思っているのだった。

私は彼らと一緒に病院に戻った。

森下慎也の父は病院の入り口で彼を見かけると、何も言わずに彼を一発叩いた。

「ふざけるな!君は本当にふざけすぎだ!」

そして、彼は桜井玲奈を振り返り、怒りをあらわにした。

「一体、何を息子に吹き込んだんだ!」

桜井玲奈はすぐに涙を浮かべた。

「伯父、私のことを見守ってくれていたでしょう。私がこんな人間ではないことを知っています」

「千
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