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第10話

森下慎也は私を失った日から、まるで魂を抜かれたように生きていた。

毎日目覚めると、彼の唯一の仕事はこの家を整えることだ。

彼は私の服を一枚一枚丁寧に畳んで片付け、それから長い時間、クローゼットの前でぼんやりと見つめていた。

彼はさらに多くの時間を、寝室で私が作った手帳を何度も何度も繰り返しめくりながら過ごしていた。

見ているうちに、彼はふと笑い出したり、突然崩れ落ちて泣き出したりすることもあった。

夜になると、彼はその手帳と私の寝間着を抱きしめたまま、服を着たまま眠りについた。

私の温もりを感じなければ、安心して眠ることができないように。

普段、彼はあまり家事をすることはなかった。

今では、彼は雑巾を手に取り、家中を隅々まで磨き上げていた。

床さえも一切の汚れなく磨き上げられていた。

彼は、私の花や植物の世話をし始めた。毎日、肥料を与え、水をやり、心を込めて丁寧に手入れをしていた。

それだけでなく、森下は私の日用品を何度も何度も丁寧に拭いた。すべてを終えた後、彼は一人でぶつぶつと独り言を呟いていた。

「千代子、見てよ、ちゃんと綺麗に拭いたから」

「僕はこんなに家事が得意だから、結婚したら絶対に千代子を幸せにするよ」

鏡に映る森下慎也は、やつれた顔をしているのに、まるで幸せそうに笑っていた。

私は復讐したところで何も得るものはないし、だからといって森下慎也への同情の気持ちも湧いてこななった。

ただ、彼のことを可哀そうだと思うだけだ。

彼は自分の妄想に浸り続け、食事すら取らなくなった。

お腹が空いたら、家の中にあるインスタントラーメンやスナックを引っ張り出して、適当に済ませた。

やがて、それすらもなくなり、水だけで飢えを凌ぐようになった。

なのに、彼は自分では食べないくせに、大量の食材を買い込んで、キッチンで料理を作り続けた。

「そうだ、千代子が好きなスペアリブ煮込みを作るよ」

「絶対に千代子が好きな味に仕上げるから、いつか戻ってきて、一緒に食べてくれ......」

何度も何度もキッチンをめちゃくちゃにし、焦げた料理を抱え込んで泣きじゃくる彼。

「僕って本当にダメだ。どうしてこれすらできないんだ......」

泣き終わった彼は、そっと涙を拭き取り、静かに台所をきれいに片付けた。
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