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第313話

松本若子は覚悟を決めて部屋の中へ入った。

「座ってて、私、着替えてくるから」

伊藤光莉は美しい姿勢でゆったりと歩きながら、部屋の奥へと消えていった。

若子はその後ろ姿に目を奪われた。

義母はしっかりと手入れをしているようで、その気品ある佇まいには目を見張るものがあった。若々しく、まるで三十代の女性のようで、何も知らなければ彼女と修が親子だとは思えないほどだ。むしろ、まるで兄妹のようにすら見える。

しばらくすると、奥の部屋から二人の話し声が聞こえてきた。

「光莉、今すぐ俺を追い出しても平気なのか?」

「藤沢曜、これ以上気持ち悪いことを言ったら、文字通り蹴飛ばしてやるわ。まだ両足でしっかり歩けるうちに、黙って出て行きなさい」

若子は思わず身震いし、いたたまれない気持ちになった。

こんな状況になると分かっていたなら、どんな理由があろうと、絶対に来なかったのに......

しばらく、藤沢曜は部屋から出てきた。彼は整ったスーツ姿で、隅々まできちんとした身なりをしている。

松本若子は思わず見惚れてしまった。中年になってもその風格は衰えず、まるでドラマに出てくるハンサムなダンディー叔父様のようで、ますます魅力が増している。

こんな素晴らしい遺伝子があれば、修があれほど整った顔立ちなのも無理はない。

だけど、見た目が良くても、人間性はまた別の話だ。

藤沢曜のように、自分勝手な振る舞いをして、最後に後悔して「元サヤ」を望むような男になるのは、ただの「情けない追従者」に過ぎない......

若子はそんなことを考えながら、

ついクスッと笑ってしまった。

その笑い声に気づいた藤沢曜は、若子のそばを通り過ぎながら彼女を一瞥し、「何がそんなにおかしいんだ?そんなに笑えることか?」と冷ややかに言った。

若子はすぐに笑顔を引き締め、「いいえ、何でもありません。ただ道で小さな猫を見かけたのを思い出して、かわいかったなって思って」と

適当な言い訳を口にした。

藤沢曜は冷たく鼻を鳴らし、口の動きだけで「お前が俺の邪魔をした」と伝えてきた。

松本若子は頭を下げて、何も言わずに沈黙していた。

藤沢曜の足音がリビングから遠ざかっていくのを聞いて、ようやくほっと息をついた。

その時、部屋のドアが再び開き、今度は整った服装の伊藤光莉が歩いてきた。

「何か飲む?」と

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