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第314話

伊藤光莉が煙をくゆらせる姿は、特別な艶っぽさがあって、吐息ひとつひとつが魅力に満ちていた。松本若子は思わず心が乱され、

自分が男だったらきっと惹かれてしまっていただろうと思った。

いったい義父はどんな女のために、こんな魅力的な妻を疎かにしてしまったのだろうか。

目の前にこんな美しい女性がいるというのに、なぜ彼はそれを大切にできなかったのか。

「男というのは浮気をしたい時、たとえ妻が女神でも平気で他の女に目移りするものなんだな......」

と若子は心の中で皮肉を呟いた。

伊藤光莉はゆっくりと煙を吐き出しながら、「別に、まだ前と同じよ」と冷静に言った。

松本若子は疑問に思い、「それなのに、どうしてお義父さんがここに......?」と口を開いた。

光莉は若子の表情を見て、微笑みながら、「どうしてここにいて、しかも私と曖昧な関係に見えたのかって?」と返した。

若子は気まずく笑って、「もし話したくなければ、大丈夫です。無理に話さなくても......」と言った。

「話せないようなことじゃないわ」光莉はタバコの灰を軽く落としながら続けた。「人間には誰だって欲望があるでしょう?私だって、ずっと一人でいるのは嫌よ。彼とは特別な関係を保ってるだけ。それに、藤沢曜はその点では悪くない、私を満足させてくれるから」

松本若子は言葉を失った。

義母はなんともあっけらかんと、そして自由に生きているのだと思わず感心した。

彼らは正式な夫婦であり、大人同士だ。光莉が感情的には距離を置きつつも、身体的な関係だけを割り切って楽しんでいる姿は、ある意味で非常に理性的で、清々しいものすら感じられた。

気持ちに囚われず、ただ自分の幸せと満足を大切にする。

光莉の生き方には一種の解放感があった。

松本若子は、自分にはそんな割り切り方はできないと感じていた。心のどこかで、修に対する完全な憎しみを抱けていない自分がいることも、彼女は理解していた。

もし本当に彼を憎んでいたなら、彼に触れさせることすら拒んでいただろう。

若子は、光莉のように自由に振る舞うことがどうしてもできなかった。

若子が黙っているのに気づき、光莉は淡々と言った。「どうしたの?私が間違っていると思ってるの?受け入れる気がないのに関係を続けるなんて、おかしいと感じる?」

「いえ、そんなことないです」若子は首を
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