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第319話

「......」

松本若子は一瞬、何と言っていいか分からなかった。

光莉の言葉には妙に説得力があり、反論の余地がない。

「まだ見たいの?」と光莉が尋ねると、

若子はうなずき、「ええ、見たいです。これ、家に持ち帰ってもいいですか?」と答えた。

「いいえ、ここで見なさい。終わったら帰ればいいわ。こんなにたくさん持ち帰るのは大変でしょう?」と光莉はきっぱり言った。

「でも......」若子は箱の中の資料をパラパラとめくってみて、「こんなに多いと、一日で終わらないかもしれません。分析したり、調べたりも必要ですし......」

「気にしないで。ここに泊まりなさい。必要なものは全部そろってるし、冷蔵庫に食べ物もあるから、昼食も自分で作るか、デリバリーでも頼んでいいわ。私はこれから出かけるけど、戻る時にあなた用の下着も買ってくるわ」

光莉の配慮に、若子はありがたくうなずいた。「ありがとうございます、お義母さん」

若子は、目の前の大量の資料を見て小さく身震いした。

どうやら、今夜はここで徹夜することになりそうだ。

その後、光莉が服を着替えて出かけた後、

若子は彼女の家庭オフィスに腰を据え、箱から一枚一枚資料を取り出して読み始めた。

複雑なデータが並んでいて、前に読んだ内容を忘れないようにとメモを取るため、彼女は机の右側にある引き出しを引いた。

その中には、一枚の写真が入っていた。

それは幼い頃の藤沢修の写真だった。

まだ数歳くらいの修はとても可愛らしく、大きな黒々とした瞳が輝いていた。

若子はその幼い顔に指先でそっと触れ、口元に微笑みが浮かんだ。

しかし、その笑みはすぐに消え、若子は小さくため息をついた。

「こんなに可愛かったのに、結局は......渋い男に育ってしまったわね」

写真を元の場所に戻し、引き出しをそっと閉める。

どうやら、光莉は内心では息子をとても気にかけているのだろう。ただ、それを表に出すのが苦手なだけだ。修もまた、彼女に似ているのかもしれない。

......

夜になって帰宅した伊藤光莉は、松本若子がまだ資料を調べ続けているのを見て驚いた。

若子は資料に夢中になり、メモを取ったり、マーカーで印をつけたり、スマホで何かを検索したりしていた。

その姿は真剣そのもので、光莉が帰ってきたことすら気づいていない様子だった。

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