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第306話

「もしかしたら、自分の家族のために、お金を集めるために、自らを犠牲にする人もいるかもしれないじゃない。探してみれば、きっといるわ」桜井雅子は諦めずに言った。

藤沢修は無言で頭を振り、もはや何も言う気が起きなかった。

修の冷ややかな反応を目にして、桜井雅子は焦り始めた。

「つまり、あなたはもう私を助けたくないってこと?」雅子は感情的になりながら問いかけた。

「もしかして、私のことなんてどうでもよくなったの?その態度、まるで私を責めているみたい。私を犯罪者扱いしてるの?でも、私が買わなくても他の誰かが買うのよ。そういう闇のビジネスは、結局消えることはないじゃない!」

......

藤沢修は桜井雅子から、こんな理屈を聞かされるとは思ってもみなかった。

その発言に彼の怒りは膨れ上がっていった。

こういう発言は、まるで「自分が買わなくても他の誰かが買うから、人身売買はなくならない」と正当化しているようなものだ。

そもそも、「需要がなければ被害も生まれない」という理屈ではないのか?

果たして、人間の本質とはこれほどまでに卑劣なものなのか。

藤沢修は雅子に対して急激に言葉を交わす気が失せ、

背中の痛みと胸の怒りを抑えながら冷たく言った。「あなたは少し冷静になるべきだ。これから数日間は、俺に連絡しないでくれ。何かあれば矢野に連絡を」

彼は失望していた。

まさか、彼女が他人の命を犠牲にしてまで自分を救おうとする人間だったとは。

雅子がそんな考えを持っているとは、夢にも思わなかった。

彼ら二人には、どうしても冷静に考える時間が必要だった。

藤沢修が部屋を出ようとしたその時、桜井雅子は彼の行動が彼女にとっての「限界点」に触れたことに気づいた。

雅子は自分の言葉がここまで彼を動揺させるとは思ってもいなかった。

彼女にとっては単に心臓を手に入れる手段の一つとしか考えていなかったが、修にとってはそれ以上の問題だったのだ。

つまり、藤沢修は他人の命の方が桜井雅子の命よりも大事だと言っているのだろうか?

修がドアノブに手をかけ、ドアを開けかけたその時、雅子は思わず叫んだ。「修!」

雅子は布団を跳ね除け、点滴の針を無造作に抜いて、シーツを引っ張りながら床に倒れ込み、這うようにして藤沢修の方へ向かった。「修、行かないで!話を聞いて!」

修はドアを少し開けた
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