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第053話

藤沢修は黙って彼女を見つめ、その場で言葉を失っていた。心の中には怒りが渦巻いているはずなのに、その感情をどう処理すればいいのか分からない。

彼が自分で「子供は作らない」と言ったのだから、彼女が彼の子供を望まないというのは、むしろ都合がいいはずなのに、そうじゃないの?それなのに、どうしてこんなにも胸が苦しいんだ?

松本若子は涙を拭い、ドアを開けようとした。

「どこに行くんだ?」と藤沢修は彼女の手首を掴んだ。

「まさか、まだあなたと一緒に寝ると思っているの?」松本若子は彼の手を強く振り払った。「もちろん隣の部屋で寝るつもりよ」

彼らはまだ夫婦だ、離婚していない限り、たとえ一日でも夫婦であり続ける…そんな言葉は、もう通用しなくなった。

彼らの夫婦関係は既に名ばかりのものとなっている。自分を欺く必要なんてない。彼と一緒にいる一分一秒が、彼女にとっては息をするだけでも苦しい。

松本若子はドアを開けて、そのまま部屋を出て行った。

彼女は客室に戻り、ベッドに横たわり、枕に顔を埋めて泣き崩れた。

どうして自分はこんなに弱いのか?こんな時にまで泣くなんて。

自分が憎いけど、感情を抑えられない。胸が痛い、愛が深ければ深いほど、こんなにも痛みが伴うなんて。

松本若子は自分の胸を押さえ、心臓が締め付けられるような痛みを感じた。その痛みは次第に体のすべての細胞に広がっていき、下腹部にも鈍い痛みが現れ始めた。

松本若子は不吉な予感を覚え、最初はただの悲しみが原因だと思ったが、すぐに異変を感じた。下腹部から温かい液体が流れ出してくるのを。

彼女はすぐさまベッドから飛び起き、洗面所に駆け込んだが、ほどなくして震える手でスマホを取り出し、電話をかけた。

「もしもし、秀ちゃん、私、出血してるの」

「何ですって?」電話の向こうの田中秀はすぐに反応し、焦りながら尋ねた。「どれくらいの量?」

「多くはないけど、でも…ずっと出てる」

「すぐに病院に行って!私も今から向かうわ」

「秀ちゃん、何か少しでも楽になる方法ないかな?病院に着くまで持たないかも…」

田中秀は急いで言った。「今はまず落ち着いて、深呼吸して。焦れば焦るほど悪くなるから、激しい動きは絶対にしないで、走っちゃダメよ。誰かに車を運転してもらって病院に行って、救急車は呼ばない方が早いから」

電話を切った松本若子
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