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第8話

彼はなりふり構わずに変わった私を壊そうとした。

私の生路を塞ぎ、この世界に私を愛する人がいなくなることを望んでいた。

そうすれば、私は彼の傍にいるしかなく、彼の愛を懇願するしかなくなる。

でも彼は知らない。私は一瞬たりとも彼を愛したことがなかった。

「康之、私が今まで稼いだ金はすべて滝森おじさんのカードに入れたの」

「娘として、彼を何年も世話してきた」

「だから、もう後悔していないわ」

康之は椅子に力なく倒れ込み、まるで全身の力が抜けたようだった。

「真波、僕は離婚なんかしない……」

私は彼の言葉を再び遮り、淡々とした表情で言った。

「意見を求めたわけじゃないわ」

「会社に問題が出たでしょ」

私は彼を見つめながら、一言だけ投げかけた。

「粉飾決算」

康之の表情が一瞬で変わった。

彼の会社は資金が深刻に不足しており、資本提供者を安心させるために、財務報告を美化していた。

この件が表沙汰になれば、彼の会社は一気に危機に陥るだろう。

ここまで彼がどれほどの努力を費やしてきたかは分かる。

だから、彼は私ごときで築き上げたものが壊されるのを黙って見るはずがない。

私は彼に微笑んだ。

「私たち、良い関係で別れましょう」

16、

6月の空は急に変わるものだ。市役所へ向かう道中、突然雨が降り始めた。

最後の交差点で、信号を待つ数十秒の間。

車内の雰囲気は静かで、重苦しいほどだった。康之はふとこちらを向いた。

彼が口を開く。剣幕がすることも、嫌味を言うこともなく。

「真波、もし僕が最初からそんなひねくれていなかったら……」

「僕たちは……」

「ずっと一緒にいられたのかな?」

私は一瞬ためらい、彼と共に歩んできた年月を振り返ってみた。

彼の優しさを、思い出すことができなかった。ほんの一瞬でも。

婚姻届受理証明書を受け取ったその日から、彼の周りには常に他の女性がいた。

彼は特に、そうした女性たちが私を挑発するのを楽しんでいるようだった。

私はいつもただ彼に微笑みかけ、心の中に波風を立てることはなかった。

そんな時、彼はいつも怒りをぶつけてきた。

私を屈辱で泣かせるまで、彼は決して収まらなかった。

そんなことを思い出しながら、私は自嘲の笑みを浮かべ、彼には答えなかった。

人は、失う直前になると過去を懐かしむものだ。

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