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第6話

「直人」

私は彼の言葉を遮り、

「私を抱きしめて」

彼は驚いたように一瞬固まった。

「抱きしめて」

私はもう一度繰り返した。

温かい胸が私を包み込み、その腕の力は次第に強くなっていった。

抱きしめる手が、微かに震えているのがわかる。

7年前、直人はバラの花束を抱え、心を躍らせながら海沿いで私を待っていた。

夜明けから日暮れまで、彼はずっと私を待ち続けたが、私は最後まで現れなかった。

直人を拒絶したあの日、彼は赤くなった目で私に聞いた。

「俺のこと、本当に一度も好きになったことはないのか?」

私は首を横に振った。

彼がどれだけ懇願しても、私は一度も振り返らなかった。

当時の私の心はあまりにも暗雲に覆われ、彼の目を見ることすらできなかった。

しかし今、彼の熱い吐息が耳元をかすめ、その曇りはすっかり晴れているかのようだった。

11、

深夜、私は直人を引っ張ってホテルのカーペットに座り、思いっきり飲んだ。

数杯目を過ぎると、彼は少し酔っ払って顔が赤くなり、目もとろんとしてきた。

私は立ち上がり、テレビをいじって音楽をかけた。

戻ってくると、彼は静かに私の隣に寄ってきた。

私たちの距離は、わずか指一本分しかなかった。

お互いの腕がかすかに触れ合いそうで、私の心は一気に熱くなった。

「直人、明日、私は帰らなきゃいけないの」

彼はグラスを持った手を少し止めて、しばらくしてから静かに言った。

「今の真波は、あの時、俺を拒絶した時の姿にそっくりだ」

音楽は耳をつんざくほどの音量だったが、私たちの世界はまるで別の場所にあるかのようだった。

彼の言葉は、一字一句、私の耳にしっかりと届いた。

彼は背中をベッドに預け、顔をこちらに向けた。

その声はかすれ切っていて、限界のようだった。

「また俺を置いていくのか?」

その瞬間、私がこれまで築いてきた防御が音を立てて崩れ落ちた。

彼は桐生直人、私の潰れかけた絶望的な生活の中で、唯一の温もりだった。

そして、深い淵の中で唯一希望を見せた存在。

この数年間、彼の名前を思い浮かべるだけで、胸が痛むような鼓動があった。

ただ、彼が幸せでいてくれることを願っていた。

私のせいで、彼に汚れがつくのを避けたかった。

だから、私は彼から遠ざかり、彼を押しのけ続けた。

しかし今の彼は、幸せ
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