第9話

その後、私は小走りで車に乗り込み、直人は体を少し傾けてシートベルトを締めてくれた。

「こんな早いんだから、もしかして朝ご飯、まだなのか？」

私は彼の顔に軽くキスをした。

直人は驚いて、頭を車の天井にぶつけそうになり、耳まで真っ赤になっていた。

「真波、お前……」

私は笑って言った。

「7年前から、ずっとこうしたかったの」

彼は顔をそむけ、私を見ないようにしたが、口元の笑みは隠しきれなかった。

「一つ聞きたいんだけど、どうして急に帰国したの？」

「会いたいから」

雨が降りしきり、彼の瞳をぼんやりと湿らせていた。

「この数年間、お前は幸せになれなかった」

「だから、俺の存在がきっと何かを変えると思ったんだ」

彼は確信に満ちた声で言った。

「お前のためなら、俺は何もかも投げ捨てられる」

その瞬間、まるで高校時代に戻ったかのようだった。

彼は明るく眩しい少年で、生徒だちがひそかに憧れた存在だった。

でも、彼はいつも私だけを照らしていた。

彼は今でもあの頃のまま、午後の教室で机に伏せながら、小さな声で「俺たちはこれからも一緒だ」と言っていた少年だ。

外では雨がさらに強くなり、路傍の木々を激しく揺らしていた。

隣には、私の愛する人が座っている。

その瞬間、情がこれまでにないほど胸の内にあふれ出した。

私は彼の手にそっと触れた。

温かくて、乾いている。

彼は私の手を握り返し、身を傾けて私をしっかりと抱きしめた。

彼の呼吸と私の呼吸が一つになるほど、ぴったりと。

「直人、私たちはこれからも一緒だよ」

彼は私の髪に顔をうずめ、少し嗄れた声で答えた。

「約束だ」

19、

再び康之に会ったのは、直人と買い物を終えたばかりのときだった。

駐車場の薄暗い照明の下、康之が私を呼び止めた。

彼の顔は青ざめていて、手に持っていたタバコの吸い殻が地面に落ちた。

それが手の甲を焼いても、彼は全く反応しなかった。

これまで彼と長く付き合ってきたが、こんなに乱れた姿を見たのは初めてだった。

康之は手を伸ばし、私を掴もうとしたが、直人に遮られた。

彼の表情は一気に険しくなり、戸惑いも見せたようだった。

「桐生、君も一応社長だろう」

「僕と寝た女を拾って、気にならないのか？」

「世間に知られたら、君の顔は……」

直人はごく自然に私