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第5話

「怖がらないで、真波、俺が傍にいるから」

その声と、なじみのある匂いが、私の荒れた呼吸を少しずつ落ち着かせていった。

「おやおや、これはこれは桐生さんではないか」

康之はあまり気にせずに笑みを浮かべ、ゆっくりと立ち上がった。彼はズボンを払いながら、私を指差して言った。

「桐生さん、まさかまだあの女に未練があるのか?」

「目の前にいるこの女が、どれだけ汚いか知ってるか?」

「こいつの母親は、僕の家を壊して金を持ち逃げしたんだぞ」

「それに新婚初夜に、僕と無理やり子供を産もうとしたんだ」

直人は康之の言葉には耳を貸さず、ただ目を伏せた。

彼の指先は私の手首の赤くなった痕をそっと撫で、かすれた声で私に問いかけた。

「痛い?」

「真波、大丈夫?」

全身が震え、涙が止めどなく溢れ出た。

それを見た直人は、喉を鳴らし、私の前髪を優しくかき上げながら、目を見つめて低く囁いた。

「大丈夫だ、ここで少しだけ待っていてくれる?」

私は彼を見つめながら、涙を流し、震える声で「うん」と答えた。

9、

康之の顔つきは険しくなったが、口からは相変わらず辛辣な皮肉が出ていた。

「まさか、こんな汚い女でもいけるのか?」

直人はゆっくりと振り返り、軽く笑いながら言った。

「滝森、あの時、彼女はたった7歳だぞ」

「とっくに知ってるはずだ、お前の両親はずっと前から破綻していた」

「互いに浮気していたことも、知らなかったとでも言いたいのか?」

怒りのあまり、直人の気迫と威圧感がその瞬間、はっきりと感じられた。

その見えない圧力に押され、康之は無意識に一歩後ずさった。

彼の目が周りをさまよい、ついに私に焦点を合わせた。まるで、発散の対象を見つけたかのように。

彼は険しい顔で言った。

「知ってるから何だっていうんだ。あいつの母親が僕の家を壊したのは事実だ」

「それに、真波が僕と無理やりしたかったのも事実だ」

何かを思いついたのか、康之は急に笑い出した。

「でもな、正直、あのやらしい姿は見事だったぜ……」

彼の残りの言葉は、直人の拳が彼の腹部にめり込んだ瞬間に遮られた。

直人は両手で彼のネクタイを強く掴み上げ、冷たい声で警告した。

「口を慎め。汚いのは、お前みたいなゴミ野郎だ」

康之は腹を押さえ、呻き声を漏らしながら、直人の力に押されて背後の街
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