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第261話

啓司は空港には向かわず、泉の園に立ち寄り、逸之が使っていた歯ブラシを回収して病院に送ってDNA鑑定を依頼した。

一方、唯と景之はすでに飛行機に乗り込んでおり、誰かが彼女たちを追っていることには気づかなかった。

外は一面の銀世界で、それを見た唯はようやく安心した。

「これで、やっと平和な日々が過ごせるわね」

景之は答えず、何か考え事をしているようだった。

唯は、彼が幼稚園の友達に未練があるのかと思い、慰めるように言った。「心配しないで、これからは陽介を連れて君に会いに来るから」

景之はようやく我に返り、彼女に向かって「うん」と返事をした。

唯はさらに何かを言おうとしたが、景之はすでに飛行機に置かれていた新聞を手に取っていた。

一面のニュースはまだ葵の件で、話題は当分の間冷めることはなさそうだった。外部の人間からは、葵は今も啓司の彼女だと思われているからだ。

景之は興味を失い、新聞を顔にかぶせて休んだ。

唯は、隣にいる小さな団子のような景之を見て、彼がまるで子供ではないように落ち着いているのを感じた。

だから桃洲市に来てからというもの、一度も父親を探そうとはせず、家に帰りたがることもなかったのだ。

今、国外に戻ろうとしているにもかかわらず、彼は何一つ慌てていない。

紗枝が今いるマスキ港の街に到着するまで、あと7~8時間はかかる。唯も安心して眠りについた。

8時間後。

時差のため、マスキに到着した時は夜だった。

紗枝は早めに空港に来ており、二人の姿を見つけると、すぐに駆け寄った。

「景ちゃん、唯!」

彼女は走りで景之に近づき、彼を抱きしめた。

抱きしめられた景之は、顔がほんのりと赤く染まっていた。

「ママ」

「さあ、帰りましょう」

家では、出雲おばさんとお手伝いが夕食の準備をしており、逸之はその手伝いをしていた。

「おばあちゃん、塩を忘れてるよ」

出雲おばさんはおでこを軽く叩いて、「ああ、この年になると、もうダメだね」と笑った。

「逸ちゃんが大きくなったら、おばあちゃんにご飯を作ってくれるかな」

「うちの逸ちゃんは本当に賢いね」

その時、そばにいたお手伝いさんがやって来て、こう言った。「出雲おばさん、体調が優れないんですから、休んでください」

「もうすぐ紗枝さんが帰ってくるんだから、文句言われるよ」

仕方なく、出雲
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