第007話

彼が手を伸ばして私の手を掴もうとしたが、私の体にできた無数の傷を見て、触れることができなかった。

昨夜、白川美咲との会話を思い出し、私はイライラが募った。

「もう演技はやめて。白川美咲がホテルに泊まるのを心配してるのに、私が一人で外に出ると、君は私が無理を言っていると感じるんだろう？」

「家を追い出す時も、言うこと全て彼女のためだった。本当にただの『気まぐれ』だったのか、それとも本音だったのか、あなたと私の間で分かってるはずだよ」

彼の顔が真っ青になり、椅子を掴んで私の前にしゃがみ込んだ。

「許してくれないか？美咲に対してはただ未練があっただけで、他に感情なんてないんだ」

彼は私の耳元でずっとそう呟き続け、元々重くなっていた頭がますますぼんやりしてきた。私は手近にあったコップを無意識に彼に投げつけた。

和也は避けなかった。彼の額はすぐに赤くなり、顔中が薬で濡れた。

抑えていた苦しみがついに堪えきれなくなり、私は崩れ落ちるように泣き叫んだ。

「団子は死んだのよ！私を守ろうとして叩きつけられて、死んだんだ！」

「和也、あの時あなたは何をしていたの？私が家を出て、君たちに場所を空けたことを喜んでいたの？それとも、君の胸で泣き続ける美咲を哀れんでいたの？」

林さんが必死に私を抱きしめ、私の体を押さえ込もうとした。

和也はついに慌て始め、地面に跪いて涙を流しながら言った。

「柚子、落ち着いてくれ。お願いだ、俺が悪かった。お前を置いて美咲を迎えに行ったこと、本当に間違いだった。彼女を婚姻届を出す日に家に連れ込んだのも悪かった」

「どう罰せられても構わない。お前が体調を崩さないでくれ。本当に俺が悪かったんだ」

医者がやってきて鎮静剤を打ち、私はベッドのシーツを握りしめ、和也を睨みつけながら声を絞り出して呪った。

「和也、なんで死んだのがあなたじゃないの？」

再び目が覚めた時、私はVIP病室に移されていた。誰が手配したのかは言うまでもない。

だが、私はそれほど愚かではなかった。この最高の治療とサービスを安心して受け入れていた。

和也はその後一度も私の前に現れなかったが、夜になると、彼は毎晩私の手をそっと握り、朝までずっと座っていた。

林さんの何か言いたげな表情に気づくたび、私はいつも彼女に気にしないでと言っていた。

小説に出てくる愚かな初恋