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第002話

彼は今でも昔と変わらず自信に満ちているが、私は傷だらけだった。

全身に疲労感が押し寄せてきて、もうすぐ私たちの関係は終わるんだなと感じた。

ドアを開けると、団子が私に擦り寄って、にゃーにゃーと鳴いていた。

私は目に浮かんだ涙をこらえきれず、喉を詰まらせながら言った。

「団子、あなただけは変わらないね」

しゃがみこんで、団子を抱きしめると、彼はいつものように私に甘えるように頭をこすりつけた。

少しだけ心の曇りが晴れて、私はその柔らかい毛を撫で続け、温もりを求めた。

しばらくすると、ドアが開く音がした。足音が玄関で止まり、柏木和也はすぐに電気をつけなかった。

「ふざけるな!夜中に一人でホテルなんか泊まるな!」

団子の頭を撫でていた手が止まり、私はぼんやりとその影を見つめた。

和也の声は少し落ち着き、まるで宥めるような口調で続けた。

「これは俺が全額払って買った家だ。俺が誰を住まわせようが俺の勝手だ」

「いいか、彼女もそんなに心が狭くない、許してくれるさ」

そう言って電気をつけたその瞬間、彼の目が私とぶつかり、その甘えた笑みが固まった。

とても眩しかった。

「二人の世界を邪魔しちゃったかな?」

私は反射的に電話を切り、和也は慌てて二歩近づいてきたが、何かを言いかけたところだった。

しかし、突然に足を止めた。

「関係を断つって言ったんじゃなかったのか?結局、俺のそばを離れられないんだな」

体全体に苦しみが広がり、麻痺していた心が再び痛み始めた。

何も言えず、ただ涙が止まらずに溢れてきた。

和也はその様子を見て、急いで私のそばに駆け寄り、慌てて抱きしめて慰めようとした。

「もう怒るなよ。車でも買ってあげるよ、どうだ?」

「美咲をここに住まわせようと思ってさ。夜中に一人でいるのは危ないからな」

「そうだ、団子をケージに入れて外に出してくれないか?美咲は動物の毛にアレルギーがあるんだ」

......

一言一言、全てが白川美咲のため!

彼女のためなら、私の猫まで外に放り出そうとしている。怒りに震えながら彼を押しのけた。

「団子は臆病なんだ。それに、猫伝染性腹膜炎からやっと回復したばかりなのに、どうしてそんなことができるの?」

私は彼を押し返して、彼はよろめきながらも信じられない様子で私を睨み、苛立ちが表れた。

「こんな暑い中、凍えるわけじゃないだろ?これは俺が買った家だ。気に入らないなら出ていけばいい」

記憶の中の礼儀正しい少年は、その瞬間に消え去った。

彼を見ることもなく、私は団子をケージに入れ、家を出る準備をした。

和也は、私がいつものように我慢すると思っていたのか、まだ白川美咲のことを褒め続けていた。

「美咲は本当に優しくて、しっかりしている。君も彼女と仲良くできるはずだ」

心の奥で塞がっていた感情が爆発しそうになり、私は無表情で答えた。

「妻と妾が一緒に男を世話するなんて、興味ないわ」

次の一歩を踏み出す前に、和也は強く私の腕を掴んだ。それは昼間、彼に振り払われたばかりの場所だった。

私は痛みで逃れられず、団子はケージの中で不安そうに鳴いた。

彼は眉間にしわを寄せ、冷たく無情な目で私を見つめながら、刺すような皮肉を吐き捨てた。

「美咲をそんな下劣な女と一緒にするなよ。お前ほど腹黒くないんだ。どうせ俺のことを諦められないくせに、しつこいんだよ」

私は力を振り絞って腕を引き離し、静かな声で、だが確固たる決意を込めて言った。

「もう無理だよ、和也。これで終わりにしよう」

背後からガラスが割れる大きな音が聞こえたが、私は振り返らず、すぐにその場を離れた。

今夜の夜空はとても美しかった。ぼんやりとした街灯の光が、私のしわだらけの赤いドレスに照らされて、不気味なほどに映えた。

別荘地を出ると、そこには取り壊し中の建物が立ち並んでいた。ここ数ヶ月、辺りは荒れ果てていた。

タクシーがまだ来ていないので、私はゆっくりと歩きながら、少し心を落ち着けようとした。

突然、携帯が震えた。見ると、団子に取り付けた監視カメラから侵入者の警告が届いていた。

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