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第19話

「お父さん」唐沢桜子は声をかけた。「私は大丈夫」

「修司、誰か来たの?」家の中から声が聞こえ、唐沢梅が歩いてきた。唐沢桜子を見た瞬間、彼女の顔色は一気に曇り、冷たい声で言った。「この疫病神、何しに戻ってきた?」

「お母さん」

「私を母親と呼ばないで。お前なんか娘じゃない」唐沢梅は、顔に包帯を巻いた唐沢桜子を見下し、嫌悪感をあらわにした。

唐沢桜子が原因で、彼女は誘拐され、ひどい目に遭った。

白石哲也が死んだからこそ、唐沢家は何とか無事だった。

唐沢健介が戻ってきた後、激怒し、唐沢桜子を永光の社長から解任し、唐沢家から追放した。そして、外部に向けて「唐沢家にはもう唐沢桜子という娘はいない」と宣言したのだ。

「梅、何をしているんだ」唐沢修司は眉をひそめて言った。「確かに桜子は唐沢家を追い出されたけど、やはり私たちの娘だろう?」

唐沢梅は即座に腕を組み、冷たい声で言い返した。「当主の命令に逆らえる人がいるの?忘れないで、あなたはまだ永光から給料をもらっているのよ。当主を怒らせたら、あなたの仕事まで失うかもしれないのよ。仕事がなければ、どうやって住宅ローンを払うつもり?」

そして、玄関に立っている唐沢桜子を指さして罵った。「出て行け。お前なんか娘じゃない。お前が疫病神だから、父さんは唐沢家で立場がないのよ。唐沢翔や唐沢真

、そして他の第三世代を見てみなさい。彼らはみんな永光の株を持っていて、毎月配当だけで贅沢な暮らしをしているのに!」

唐沢梅は怒りが収まらず、ドアを「バタン」と閉めた。

唐沢桜子の目には涙が溢れ、その涙が頬を伝って落ちていった。

彼女は自分が情けなく、両親に恥をかかせたことを知っていた。

しかし、まさか両親が彼女を家に入れないとは思わなかった。

彼女は玄関前に跪き、懸命に祈り続けた。「お父さん、お母さん、私が間違った。ドアを開けてください、お願い……」

江本辰也はその姿に胸が痛み、地面に座り込んだ唐沢桜子を支え起こそうとし、「桜子、立ち上がって。この家には戻らなくてもいいよ」と慰めた。

しかし、唐沢桜子は立ち上がらず、ドアの前に跪き続け、涙を流しながらドアを叩き続けた。

しばらくして、再びドアが開き、唐沢梅がいくつかのスーツケースを投げ出して、怒鳴った。「すぐに出て行け。この家から消えなさい」

この時、家の中からもう一人、二十五六歳くらいの男性が現れた。

彼はスタイリッシュな服装をしており、容姿もかなり整っていた。そして口を開くと、

「お母さん、桜子姉さんは十分に不幸な目に遭っているんだから、たとえお爺さんに社長の地位を取り上げられて家から追い出されたとしても、家に入れてあげないなんてひどいよ。義兄はただの退役軍人で、仕事もお金もないんだよ。姉さんを家に入れなかったら、二人は一体どこに行けばいいんだ?」と言った。

話しているのは唐沢桜子の弟、唐沢悠真だ。彼も永光会社で働いており、普段はここに住んでいない。結婚後、市内に家を買ったが、家族に問題が起きたため、一時的にここに戻ってきたのだ。

「お母さん、お願いだから、私を追い出さないで」唐沢桜子は何とか立ち上がり、唐沢梅の前に跪き、彼女のズボンの裾を掴んで懇願した。

「出て行け」唐沢梅は足を上げ、唐沢桜子を蹴飛ばした。

ドアは勢いよく「バタン」と閉まった。

江本辰也は泣き崩れる唐沢桜子を抱き起こし、彼女の涙を拭い、彼女の顔を両手で包み込みながら、優しい声で言った。「桜子、俺が天城苑に連れて行くよ。友人がしばらく戻ってこないから、その間、天城苑に一緒に住もう。お父さんとお母さんの怒りが収まったら、また戻ればいい」

しかし、江本辰也が何を言っても、唐沢桜子の耳には一切入らなかった。

彼女はただただ、心の中に溢れる悲しみと、自分に対する責任感に押し潰されそうになっていた。

自分が役に立たず、家族に迷惑をかけているという自責の念に囚われていたのだ。

彼女は江本辰也の胸に飛び込み、嗚咽を漏らした。

「私は役立たずで、ダメ人間なんだ。どうしてあの時、火の中に飛び込んで人を助けたんだろう……後悔してる、すごく後悔してる……!」

唐沢桜子が今のような状況に陥ったのは、10年前に火事の中に飛び込んで人を助けたことが原因だった。

もし、あの時の出来事がなければ、彼女の人生はきっと違っていたに違いない。

江本辰也は彼女の言葉を聞き、心が締め付けられる思いだった。

彼は彼女をしっかりと抱きしめ、心の底から謝罪した。「ごめん、本当にごめん」

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