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70歳のパートナーががんを装って初恋の人と結婚式を挙げる
70歳のパートナーががんを装って初恋の人と結婚式を挙げる
著者: 小まん

第1話

その日から、息子が陽太を連れて海外へ行った七日目。

私は心配で夜も眠れなかった。

起き上がり、引き出しを開けて結婚時の写真を見つけた。

黄色く変色した写真には、二人がぎこちなく並んで立っている。彼は着物を着て、私は三つ編みをしていた。純粛で美しい時間だった。

昔ほど美しかったなら、今の苦しさも増すだけだ。

陽太は今年七十歳になり、胃がんが命取りになるかもしれない。

涙がこぼれそうになったが、慌てて写真をしまった。すると、テーブルの上に積まれていた本が落ちた。

そこから陽太の健康診断結果が出てきた。

日付は、彼が胃がんだと告げたその日だった。

しかし、健康診断結果には異常がないと書いてあった。

私は心に希望が湧いた。

もしかしたら彼が見間違えたのかもしれない。すぐに電話をかけ、息子の嫁のところに向かった。

だが、電話はつながらず、息子の嫁の声は不機嫌だった。

「ママ、勝村拓真が言ってたよ。パパと二人で病院で治療中だから、何度も電話したりメッセージしたりしないで。パパの治療に支障が出たら、ママの後半の人生、眠れるかしら?」

「でも、パパの健康診断……」

私は結果を差し出したが、息子の嫁は見向きもしなかった。

「邦彦が寝る時間だから、ママも早く寝て。また神経質にならないで!」

息子の嫁はドアをバタンと閉めた。

私はその場に立ち尽くし、健康診断結果を強く握りしめた。

もし陽太が見間違えていたなら、治療によって体を壊すことになるのではないか。

私は焦って陽太からの連絡を待った。

やがて、携帯の画面が光った。

息子か陽太からのメッセージかと思ったが、手が震えながら画面を開くと、胸を殴られたような衝撃が走った。

真相が明らかになった。

陽太は友達のグループチャットで結婚式の動画を共有していた。

しかし、花嫁は私ではなく、佐藤綾子だった。

海外の豪華な教会で、白いスーツを着た陽太は背筋を伸ばし、元気そうだった。

佐藤綾子は白いウェディングドレスを着ていて、年を取ったとは思えないほど美しかった。

二人は手を取り合い、ステージに立っていた。陽太は綾子に婚約指輪をつける瞬間、目に涙を浮かべていた。

「綾子、まさかこんな日に巡り合えるなんて思わなかった」

綾子は泣きながら陽太の胸に飛び込んだ。

教会の中で外国人たちが歓声を上げていた。

私は全身が揺らぐほど動転した。

十八歳で彼についていった。結婚式も指輪もなかった。母からもらった赤い毛布だけが私の嫁入り道具だった。

門をくぐった瞬間から、私は勝村家の嫁となった。

彼は私が働いても大した収入を得られないと言った。彼が養ってくれるという。

若い頃は彼の両親や彼を世話した。息子が生まれてからは、さらに一人増えた。

その後、息子も孫が生まれ、世話すべき人がさらに増えた。

しかし、私は一度も文句を言わなかった。

なぜなら、陽太はいつも私に「時間ができたら、結婚式を挙げてあげる。その時は自分で指輪をつけてあげる」と約束していたからだ。

私は待った。髪が白くなり、背中が曲がるまで待った。

待った末に、彼が病気だと嘘をついて海外に行き、綾子との夢の結婚式を挙げていたことを知った。

涙が止まらず、大きな滴が頬を伝った。

自分の人生を振り返ると、義父母を世話し、夫を介護し、息子と孫を育てた。

誰よりも尽くしてきたのに、唯一自分だけには申し訳ない気持ちだった。

涙ながらに文字を打ち込み、送信した。

「二人が幸せに眠れますように」

この関係には、私などいなかったのだ。

友人たちの祝福の中で、私のメッセージは異様に映った。

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