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第2話

次の瞬間、陽太から電話がかかってきた。彼は名前も思い出せない国の時差のある場所にいる。

人声が騒々しく、歓声が響いている。

一方、私は薄暗い寝室に座って、涙が止まらなかった。

「春奈、夜中に眠らないで、何をグループチャットでばかばかしいことを言ってるんだ?」

彼の声は不機嫌そのものだった。

五十年間、ずっとそうだった。

外の人には良い男、良い父親に見えた彼だが、私には常に気まますぎる夫だった。機嫌が良いときは優しく話すこともあるが、少しでも気に入らないことがあると大声を出す。

以前は私は頭を下げて、彼のすべての感情を受け入れていた。

でも今日は何も間違っていない。

間違いは、妻を騙し、結婚を裏切った彼だ。

「お前は海外で治療に行くって言ったじゃないか。どうして結婚式を挙げたんだい?」

彼はまるで喉を締めつけられたかのように、長い沈黙の後、より残酷な言葉を吐いた。

「俺はもう死にそうなんだ。若い頃の夢を叶えるために偽の結婚式を挙げただけだ。なのに、お前はグループチャットで俺の恥を晒すなんて、きっと俺が早く死ぬことを望んでいるんだな」

彼が偽の病気を装ったときも、他の女と結婚したときも、友達のグループチャットで自慢したときも、彼は恥ずかしがらなかった。

私からの返事が恥ずかしかったのは、結局、私が彼の顔を潰したからだ。

綾子は彼の初恋の女神で、私はテーブルの上の米粒のような存在だった。

私が彼と結婚できたのは、若き日の綾子が海外に出て彼を残したからだ。

私は早々に学校を辞めて働き、十八歳で彼の家に来て義父の介護を始めた。義父は私がよく世話をすると言ったので、私を嫁に迎えた。

私の価値は、そのときから「世話ができる人」に決まっていた。

愛されるべき妻ではなく、使い物になるメイドだった。

素朴な服を見下ろした。

五十年間、一度もスカートを着たことがない。

いつも黒の長ズボンで、身体を固く締め付けていた。

義父母、夫、息子一家。

すべてが重い鎖となり、私をしっかりと縛り付けていた。

電話の向こうから息子の声が聞こえた。

「ママ、誤解しないで。パパは若い頃の夢を叶えたくて、結婚証明書がないだけの式を挙げただけだ」

十月十日間の妊娠で産んだ息子、苦労して育てた息子。

彼は、母親が夢を叶えたいかどうかなど、気にかけてくれなかった。

思わず反問した。

「じゃあ、ママはどうするの?」

息子は夫と同じように沈黙し、次に言った。

「ママ、やめてくれないか?もう六十歳以上のおばあさんだよ。若者のように嫉妬して、みんなを不快にするのはやめてくれ」

結局、私が彼らを不快にさせているらしい。

周りを見渡し、五十年間懸命に手がけてきた家を見た。

写真の壁にはたくさんの写真が飾られている。

陽太の、息子の、嫁と孫の。

唯一、私の写真はない。

この家には、私の位置はなかった。

その瞬間、私は完全に目覚めた。

ここは私の家ではない。私は高橋姓で、勝村姓ではない。

「ママ、すぐ……」

「寝るわ」

電話を切ると、窓の外では小雨が降り始めていた。

荷物をまとめ、そのまま服のまま横になった。

次の朝、息子が帰ってきた。

昔の私はすぐに駆け寄って荷物を取ったり、服を脱がせたり、豊かな食事を準備してテーブルに運んだ。

でも今日は、結婚証明書を手にソファに座って、玄関を見つめていた。

「パパは?」

息子が突然近づいてきて、結婚証明書を奪った。

「これを持ってきて何するつもり?」

私は黙っていた。

彼は私の意図に気づき、大声を上げた。

「ママ、お前はもう六十歳以上だぞ!夫には息子も孫もいて、幸せな家庭がある。偽の結婚式の一件で、この家を崩壊させるつもりなのか?!世の中に、お前のような母親がいるのか!」

私もわからない。世の中に、私のような母親がいるのか。

息子は早産で生まれた。当時の保健所には麻酔薬がなく、医師はナイフで私を切り裂いた。

激痛でさえ、気絶することも贅沢だった。

今でも、私の腹には醜い傷痕が残っている。

「私はお前の母親にふさわしくない。綾子にやってもらえばいい」

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