ひとつのオレンジ
朝倉隼人(あさくらはやと)と一緒に同窓会に参加したら、みんなに聞かれた。
「ねえ、結婚はいつなの?」
「まだ決めてない」
「10月1日」
私たちは同時に口を開いた。彼はびっくりしたように顔を上げて、私をじっと見た。目に浮かんでいたのは困惑と苛立ち。
彼の視線を無視して、私は顔をそらしながら真面目に説明した。
「10月1日に結婚するよ。よかったら来てね」
彼が何を聞きたいのかは、わかってる。付き合って8年、一度も結婚の話なんて出たことがなかった。
「結婚のこと、もう少し考えようって言ってただろ?そんな風に結婚を迫って、楽しいのかよ?」
彼は私を人目のつかない隅に引っ張っていき、顔を真っ赤にして怒鳴った。私は彼の手を振り払って冷たく言う。
「あんたが待ちたいなら勝手に待てば?私は私で、結婚するだけ」
彼はもうとっくに私に飽きて、若い女の子を見つけて浮かれていた。うまく隠しているつもりだったけど、バレバレだよ。
幸いなことに、私が結婚する相手は――彼じゃない。