All Chapters of 社長夫人はずっと離婚を考えていた: Chapter 21 - Chapter 30

智昭たちが優里のお祝いを終えて家に戻ったのは、深夜1時近くだった。執事は智昭がこんな遅くに茜を抱いて帰ってくるのを見て、心配そうに尋ねた。「こんな遅くまでどうされたんですか？」智昭は「ん」と短く答えただけだった。茜を部屋に送り届けた後、智昭は自室に戻って電気をつけた。玲奈の姿が見えないので、執事に尋ねた。「彼女は今夜帰ってこなかったのか？」「奥様はまだお戻りではありません」智昭は少し驚いた。最近、玲奈はあまり家に帰ってこないようだ。こんなに頻繁に外泊するのは珍しかった。青木家で本当に何か大きな問題が起きているのだろうか。翌日。茜は最近、優里と一緒に遊ぶのがとても楽しかった。朝目覚めると、笑顔がこぼれ、満足感に包まれ、上機嫌な彼女は玲奈のことを思い出し、ぬいぐるみを抱きしめて主寝室へ走った。「ママ！ママ！」主寝室のドアは開いていたが、人の気配はなかった。茜の表情が曇ったその時、智昭が中のウォークインクローゼットから出てきた。茜は急いで尋ねた。「パパ、ママはどこ？」智昭はゆっくりとネクタイを締めながら、淡々と答えた。「家にいない」「家にいないの？どうして？」「知りたければ自分で聞けばいい」「うん」茜は携帯を取り出して玲奈に電話をかけた。玲奈はジョギングから戻ってきたところで、茜からの着信を見て電話に出た。まだ何も言わないうちに、茜が先に話し始めた。「ママ！どこにいるの？」玲奈は答えずに聞き返した。「どうしたの、茜ちゃん？ママに何か用事？」凜音以外、誰も彼女の今の住まいは知らなかった。今は一人の生活を楽しんでいて、邪魔されたくなかった。だから、今のところ茜にも住まいを教えるつもりはなかった。茜はスピーカーフォンにして、玲奈と智昭のベッドに寝そべりながら甘えた。「ママに会いたいの。ママに学校に送ってほしいな」玲奈は言った。「ママの今いるところ、そっちからだと遠くて、学校に間に合わないの。また今度ね」「そっか」茜は少し落ち込んだが、すぐに当然のように要求した。「じゃあ、明日の朝は絶対ママが送ってね」玲奈は躊躇い、すぐには答えなかった。あちらに戻りたくなかった。玲奈が黙っているので、茜は不思議そうに「ママ？」と声をかけた。スピーカーフォンにしていたので、二

その時、慎也がちょうど給湯室に来て、その言葉を聞いて驚いた。慎也と和真は、玲奈が本当に会社を去る気はないと思っていた。彼女は必ず残るための方法を見つけるはずだと確信していた。昨日、後任の理香が出社した時も、玲奈が何か行動を起こすと思っていた。何しろ、理香は美しく魅力的な女性だ。玲奈がこんな女性を智昭の側に置いておくはずがない。なのに、この二日間、玲奈は理香を受け入れるどころか、うまく付き合い、今ではコーヒーの入れ方まで教えようとしている。これは……一体どういうことなのか。慎也の考えていることなど、玲奈には分からない。彼女は仕事を丁寧にこなし、理香の食事の誘いを断り、帰宅して食事を済ませた後、AIに関する研究を続けるつもりだった。会社を出たところで、携帯が鳴った。茜からだった。「ママ、仕事終わった？」玲奈は車に乗りながら尋ねた。「どうしたの？」「揚げ肉と蓮根のスープが食べたいの。ママ、帰ってきて作ってくれない？」玲奈は一瞬躊躇った。智昭との離婚はまだ正式には成立していないし、智昭から出て行けとも言われていない。娘のために夕食を作りに帰るのなら、智昭も文句は言わないだろう。でも……今は少し疲れていたし、自分の予定もある。茜は確かに自分の責任だが、自分の生活もある。もう茜のために無条件で時間を犠牲にするつもりはなかった。「ママ今日は用事があるの。また今度ね」以前の玲奈なら、何より智昭と茜を優先していた。彼らに「ノー」を言うことはほとんどなかった。今日は続けて二度も玲奈に断られた。茜はこの変化に気付かず、本当に用事があるのだと思っただけだった。でも、いつも玲奈に一番に扱われることに慣れていた彼女は、こんな風に断られることはめったになかった。不満そうに言った。「ママ、最近どうしてこんなに用事があるの？私、揚げ肉が食べたいの！蓮根のスープも飲みたいの！」「茜ちゃん……」玲奈は頭が痛くなってきた。茜は「ふん」と言って、怒って電話を切った。車の中で玲奈は目に涙を浮かべ、目を押さえながらしばらく黙っていた。やっと車を発進させた。家に帰ると、適当に麺を食べ、パソコンを開いたところで礼二から電話がかかってきた。「数日後にパーティーがあるんだ。一緒に出席しないか？

その時、彼の携帯が突然鳴った。玲奈がちょうど見た時、テーブルに置かれた携帯の画面に「ダーリン」という文字が表示されているのが目に入った。もう気にしないと思っていた。でも、これだけ長く愛してきたのだから、簡単に割り切れるはずもない。その文字に心を刺されて、すぐに視線を逸らした。彼女の目の底にある痛みを、智昭は顔を上げた時に気付いたが、彼女の前で躊躇うことなく電話に出て、優しい声で「どうしたの？」と話し始めた。茜も智昭の様子に気付いた。茜の記憶の中で、智昭がこんな優しい表情を見せるのは、優里に対してだけだった。一瞬玲奈の存在を忘れ、嬉しそうに尋ねた。「パパ、優里おばさん？」智昭は淡々と「ああ」と答えた。茜は優里おばさんと話したいと言いかけたが、玲奈がいることを思い出した。玲奈が優里を好まないことを思い出し、言葉を飲み込んだ。でも、彼女の上機嫌は影響を受けてしまった。小さな眉を寄せ、ママが優里おばさんと仲良くできたらいいのに、と思わずにはいられなかった。向こうで優里が何か言ったのか、智昭は心配そうに眉をひそめ、朝食も終わらないうちに慌てて席を立った。茜は智昭が急いで出て行く様子を見て、心配になった。でも、玲奈がいるので、何も聞かなかった。しかし朝食の食欲もなくなり、玲奈の手を引いて立ち上がった。「ママ、もう食べ終わったから、早く出かけよう」茜は言葉にしなかったが、玲奈は彼女の全ての反応を見ていた。急いで出たがるのは、優里の状況を早く知りたいからだと分かっていた。でも何も言わなかった。「まだあまり食べてないわ。車で食べられるように持って行きましょう」と言った。「いいの、お腹すいてない……」玲奈は一瞬止まった。もう強要しなかった。車に乗ると、茜は一秒も待たずに後部座席に座るなり、すぐに優里にメッセージを送った。玲奈は見ていたが、何も言わなかった。しばらくして優里から返信があり、単なる熱を出して風邪を引いただけで、大したことはないと言ってきた。でも優里の音声メッセージは少しかすれた声で、茜はまだ心配で、すぐに放課後に様子を見に行くとメッセージを送った。メッセージを送った時、茜は少し後ろめたさを感じた。もう随分玲奈の料理を食べていなかったので、今夜は一緒に食事をしよ

翌日。凜音の熱が完全に下がってから、玲奈は家に戻った。明日の夜のパーティーのためのドレスがまだ準備できていなかった。午後、玲奈は外出した。高級ドレスショップに着くと、店長と数人の店員が一着のドレスの周りで手直しをしていた。玲奈が近づいてきて、やっと彼女たちは気付いた。「申し訳ございません。何かお探しでしょうか？」「少し見てみたいのですが」「かしこまりました」藤田家に嫁いでいても、この数年、ほとんどパーティーに出席することはなかった。結局、智昭と美穂たちは正式な場に出席する時も、彼女を連れて行くことはなかった。藤田おばあさんに関しては、何年も前から表舞台から退いており、そういった社交界にはもう関心を持っていなかった。玲奈はドレスについてそれほど詳しくはなかったが、凜音が高級アパレルを扱っていることもあり、自然と基本的な審美眼は身についていた。ただ、店内には美しいドレスが多すぎて、目が回りそうだった。玲奈も細かく吟味するつもりはなく、それなりのものがあれば良いと思っていた。そう考えていた時、先ほど店員たちが手直ししていたドレスが目に入った。玲奈は一瞬固まった。薄紫色のシースルーコルセットドレスで、ウエストの花の装飾が繊細で美しく、マネキンの首元の上品で高価なネックレスと合わせると、優雅さと華やかさが完璧に調和していた。思わず近づいていった。手を伸ばして生地の感触を確かめようとした時、まだ触れる前に店長に強く手を掴まれた。玲奈は痛みに眉をしかめた。店長は慌てて手を放した。「申し訳ございません。故意ではないのですが、このドレスは当店の上得意様のためのオーダーメイドで、世界に一着しかございません。とても高価なもので、もし何か問題が起きたら、私どもでは責任を負いかねまして……」「大丈夫です」すでに主があると知り、玲奈は少し落胆した。店内のドレスは安いもので十数万円、中程度のもので数十万から数百万円、高価なものは数千万円を超えるが、先ほどのドレスと比べると、店内で最も高価なドレスでさえ、なんと平凡に見えることか。最終的に、玲奈は刺繍入りのオフホワイトのシルクドレスを選んだ。会計を済ませ、ドレスを包装してもらっている時、近くの店員二人の小声の会話が聞こえてきた。「あのネックレスと

彼らが到着した時、会場にはほとんどの招待客が揃っていた。玲奈は美貌と気品があり、会場に姿を現すなり、多くの客の視線を集めた。主催者は礼二と親しく、彼らを見かけると笑顔で近づいてきた。挨拶をしようとした時、会場の入り口に新たな客が到着した。来客を見た主催者は一瞬固まり、目を疑った。他の客たちも同様に、来客を見て驚きを隠せなかった。背を向けていた玲奈と礼二は何が起きたのかわからず、周りの客たちが突然驚きと喜びの表情を見せるのを不思議に思い、振り返ろうとした時、主催者は申し訳なさそうな目を向けると、彼らを通り過ぎて入り口へ向かった。「藤田社長、島村様、村田様……」玲奈はその声を聞き、胸が締め付けられ、ある予感が頭をよぎった。振り返ると、笑顔が一瞬凍りついた。来客は予想通り智昭、辰也、清司の三人だった。だが、彼らだけでなく、優里も一緒だった。しかも彼女は昨日、礼服店で見かけた6億円もする薄紫のドレスを着ていた。優里は背が高く、スタイルも良く、オーラも強い。その華やかで優雅なドレスは、彼女が着ることで色気と品格を放ち、近寄り難い雰囲気を醸し出していた。「まさか智昭、辰也、清司たちとは！めったにパーティーには来ないのに、今日はどうして揃って？」「本当ね、一体どういうこと？」「彼らが連れてきた美女は誰？智昭の女？あの色っぽくて美しくて高嶺の花みたいな雰囲気、本当に凄いわ。さすが大物、女を見る目が違う！あんな女性が手に入るなら、寿命が10年縮んでも惜しくないわ！」「でも私は先程のベージュのドレスの美女の方が好みだな。清楚で静かな佇まいが上品で美しい。あの方が珍しい気がする。でも、もう伴侶がいるみたいだけど」その時、玲奈は誰かが驚きの声を上げるのを聞いた。「うわ、このドレス！昨日見た時は感動したよ。店主が大物が彼女のために注文したって言ってたけど、まさか智昭とは！6億円だぞ、マジで！」「なに？6億円？！」それを聞いて、玲奈はゆっくりと目を伏せた。先程ドレスを優里が着ているのを見た時、智昭が優里のために用意したものかもしれないと思っていた。確かに大森家は今は順調だが、一回のパーティーのために数億円もドレスに使うのは、今の大森家の財力では贅沢すぎる。でも智昭にとって6億円など大したことではない