All Chapters of もしもあの日に戻れたのなら: Chapter 21 - Chapter 30

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忍び寄る悪意⑨

「すみません、長々とお世話になりました」 実は2日泊まってしまったのだが、思いの外居心地が良くてそのまま居座りそうな空気になっていた為一度家に帰ることにした。 姉さんもずっと連絡してきてるし、寂しいんだろうな。 「カナタくん、これから3日おきにここに来るといいよ。その時に魔法を教えてあげよう」 「ありがとうございます。次に会うまでには中級魔法をマスターしておきます!」 程々にね、と笑いかけてくる皆。 僕は今までこんなに居心地のいい時間を過ごしたことはない。 姉さんといるときはもちろん居心地のいい時間だが、それとはまた違う良さがある。 皆に別れを告げて帰路に着くが、当たり前のように僕の横を歩くアカリ。 そうだった、護衛だった。 姉さんにはなんて説明しようか……。 「ただいまー」 姉さんの仕事に履いていく靴はあるが、玄関の扉を開けると人の気配がない。 姉さんはまだ帰ってきてないみたいだ。 間違えて違う靴を履いていったのかな。 「アカリはずっと僕に張り付いているのか?」 「トイレとお風呂は別行動」 そうだよな、それを確認しておきたかったんだ。 もし風呂やトイレにも付いてこられると落ち着かないしこんな女の子に見られるなんて恥ずかしすぎる。 「カナタ、1つ聞きたい」 「なんだ、改まって」 「紫音はどこ?」 姉の名前も知っているのか。 流石に護衛というだけあって僕に関する情報は一通り頭に入れてるみたいだ。 「姉さんは多分まだ帰ってこないよ、仕事じゃないかな」 「じゃあこのスーツは何?」 リビングに脱ぎ捨てられクシャクシャになったスーツ。 玄関にはいつも仕事に履いていく靴。 どういうことだ?確かにおかしい。 それに今は18時過ぎ、いつもなら帰ってきててもおかしくない時間だ。 アカリは黙り込んだまま、俯いている。 「アカリ?」 「紫音が攫われたかも」おいおい、流石にその冗談は笑えないぞ。 たった一人の血縁関係なんだ、姉さ
last updateLast Updated : 2025-01-31
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忍び寄る悪意⑩

「全力で防御して」は?待て待て、こっちはまだ習いたての魔法しかないんだぞ。全力で防御しても紙切れのような脆さしかない結界になんの意味があるのか。それでも一応アカリの言葉に従い、自身の周りに半径30センチ程度の防御結界を作った。「魔族が来る」刹那、突風が吹き荒れ辺りは嵐の中に入ったかのような暴風雨に包まれる。防御を推奨したのはこのためか。とにかくずぶ濡れになることだけは避けられたようだ。「チッ、もう追手が来たのかよ」聞くに堪えない酒ヤケしたかのようなガラガラ声。これは魔族の声か。「神速絶技、抜刀」アカリの呟きが耳に入ったときには、周囲に晴れ間が広がっていた。「私の動きが速すぎて歩くだけでこんな程度の風、散らせる」アカリから説明が入ったが、今はそれどころではない。雨が上がり突風が止んだせいで、直線20m程離れた所に異形が立っているのが見えてしまった。魔族とはこういうものだ、と言わんばかりの見た目。赤黒い身体に岩肌のような手足。顔をトカゲと人間を混ぜたかのような、目を伏せたくなる醜さだ。「やるじゃねぇかネーチャン」異形から発せられた言葉はアカリに向けられているようで、僕のことは眼中にない素振りだ。「ああ、自己紹介してやるよ」そう言って構えを解いた異形が名乗る。「オレの名前はグリード。破壊の王とはオレのことだ」レイさんから教えてもらった四天王の名前、確かグリードって奴も居た気がする。てことは、アカリには荷が重いんじゃないか?「安心してカナタ。私は既に四天王の一体を討伐している」僕にはアカリの戦闘能力すら化け物に感じた。あの異形と僕と同じくらいの身長の女の子が同等?なんて馬鹿げた世界なんだ、異世界ってやつは。それより問わないといけない事がある。「紫音姉さんはどこだ!」あまり声を荒げる事がない僕だが、今日くらいはいいだろう。早く姉さんの無事を確認しないと、いつまで経っても気が
last updateLast Updated : 2025-02-01
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忍び寄る悪意⑪

刹那の攻防により、辺りの道路は鋭利な刃物で引っ掻いたような傷、崩れる石垣、半壊した住宅。 見るも無惨な光景に変わりゆく。 動きが速すぎて目では捉えられないが、時折聞こえる剣戟の音が激しい戦闘を物語っている。 「神速絶技、死線月花」 「ドミネートブラストォ!」 お互い技の撃ち合いをしているような声も聞こえてくる。 アレンさんに連絡をしておいたほうがいいか? いやアカリが僕の為に戦ってくれているんだ。 水を差すような真似はやめよう。 「しぶといね、これで終わり」 「オメーこそなかなかやるじゃないか!」 お互い足を止めたようで僕にもやっと姿が見えたが、アカリはほぼ無傷でグリードは所々に血が滲んでいる。 四天王の1人を討伐したことがあるっていうのは、本当のようだ。 しかしアカリは瞑想のような仕草で深く呼吸をする。 一拍置いて目を開きグリードに問いかけた。「構えたほうがいい、これで四天王の1人は死んだから」 「なんだと?」 グリードも流石に不味いと感じたのか先程の余裕は感じられず力を溜めているような表情をしている。 「神速絶技、一閃」 刀がゆっくりと鞘から抜かれ刀身が顕わになる。 もう一度ゆっくり納刀する。 「終わった、カナタ」 いや、まだ眼の前にグリードが突っ立っているけども。 ………… ………… …………ボトリ。重たい水袋を落としたような音が聞こえそちらに目を向けると、グリードが呻き声を上げた。 「ううぐぅぅああ!」 足元には分厚い腕が落ちており、肩を見るとその先がない。 斬ったのか?さっきのゆっくりした抜刀で。 「クソが!!」 捨て台詞を吐き捨て、痛みを堪えながらグリードは黒い靄に包まれて消えていった。 「終わったって言った」 そうは言うが僕にはただゆっくり刀を抜いてまた戻しただけに見えたがなにをしたんだ。 「見えなかっただけ、あいつの身体が異常に硬かったから同じ動作を数十回行った」
last updateLast Updated : 2025-02-02
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忍び寄る悪意⑫

僕とアカリも帰路に着く為2人徒歩で夕焼けに染まる住宅街を歩く。「そういえば気になったんだけど、閑静な住宅街とはいえ人はいるだろ?なんで誰も出てこなかったんだ?」流石に人気が少ないとはいえ、住宅がある以上そこに住む人達は少なからず居る。なのに、あれだけ大騒ぎしていたのにも関わらず誰も出てこなかった。「魔族が人払いの結界を張っていたから」僕の問いかけにアカリは淡々と答えた。「でも魔族って凶悪な存在なんだろ?人払いの結界を使うなんて変な話だな」聞いてる話だと魔族は人を襲い、殺す。それなのに人払いをする意味が分からない。「魔族はこっちの世界では目立ちたくない。目立てばこっちの世界の武力とぶつかる事になる」「魔族は強いんだから軍なんて役に立たないだろ」「もちろん魔族が勝つ、けど消耗はする。そこに私達と出会ったら消耗した魔族は討伐される危険性がある」なるほど、魔族も考えて行動をするみたいだ。いくら強くても生物である以上は疲労も溜まるし魔力も体力も消耗する。無敵なんて言葉は生ある者には似合わない言葉だな。「じゃあこの世界の武力を総力戦でぶつければリンドールって魔神も簡単に倒せるんじゃないか?」「カナタ、魔神は次元が違う。私達では逆立ちしても勝てないし、魔族にすら勝てない武力はあっても邪魔になるだけ」酷い言われようだが確かにその通りだ。アカリみたいな強者であっても勝てないと言われる魔神は相当な強さを誇るんだろう。僕には想像できないが。 また2人無言で歩き続ける。 「そういえば、アカリはなんで護衛を引き受けたんだ?」上からの命令とはいえ、自由がほとんどなくなってしまう護衛は正直いってなんのうまみもない。「なんとなく」まあそんな答えが返ってくる気はしてたよ。聞いただけ無駄だった。 「カナタはなん
last updateLast Updated : 2025-02-02
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それぞれの想い①

2044年1月9日雪が降り、所々に数cm積もる。吐く息は白く、冬を実感させる寒さだ。 今日は異世界から飛ばされて来た春斗達の住処、通称宿り木に行く理由ができた。なんと遂に春斗が退院したのだ。1週間前、アカリから聞かされた時は今直ぐにでも向かおうとしたが、まだ安静にしないといけない状態らしくもう少ししてからと待ったをかけられてしまった。面会すら出来ない状態だと聞いたときは、背筋が凍る思いだったが割と元気になっているとのことだ。友達に会える、それだけで足取りは軽い。 宿り木のインターホンを鳴らすとフェリスさんが出迎えてくれた。綺麗な人だからちょっと緊張するのは内緒だ。 「待ってたわ、ハルトは中にいるからどうぞ」アカリと共に玄関をくぐると、なにやら楽しそうな会話が聞こえてくる。「もうすぐカナタくんが来るから待ってろって」「いや!今直ぐにでも会いたい!!俺から会いに行く!!」どうやら春斗も僕に会いたかったらしい。扉を開ける前から春斗の声が僕のところにまで聞こえてきた。リビングの扉を開け、僕は開口一番に春斗へと声をかけた。「退院おめでとう!久しぶりに会えたな」「カナタ!来てくれたか!!」溢れんばかりの笑顔で僕を出迎えてくれた。もうだいぶ快復したようで、入院していたとは思えないほどに元気が溢れている。「心配したんだぞ、大怪我を負ったって聞いて」「いやー思ったより強くてな」豪快に笑い飛ばすが、入院するほどの大怪我を負っても治ったら笑い話にするのは異世界特有の文化なのだろうか。皆を見ても笑っているし、死と隣り合わせの世界ではこれが普通なのだろうなと納得する事にした。「てことは僕の護衛に復帰するってことか?」「いや、それがな……アカリの方が適任だってことで俺は外された」寂しそう
last updateLast Updated : 2025-02-03
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それぞれの想い②

アレン・トーマスは生まれた時から魔法の才に恵まれていた。10歳で既に冒険者として名を馳せ、16歳の時には彼の名前を知らぬ者が居ないほどに。しかし常に彼は独りだった。ソロでのダンジョン攻略、護衛任務、魔族討伐の旅、いつどこであっても1人だった。もちろん彼も何度かパーティに誘われ複数人で動いていたこともある。だが、彼は突出した強さのせいで魔族討伐では仲間とうまく連携が取れず、護衛任務では戦力差がありすぎて気を使う動きしかできず、結局ソロでしかまともに活動はできなかった。いつしか、ソロで1度も敗北を経験したことがない、魔物を狩るときは肉片1つ残さない彼を周囲は殲滅王と呼ぶようになった。 そんな時、1つのパーティが彼に声を掛ける。レイ・ストークスを筆頭に4人で構成されたパーティだ。レイはアレンの圧倒的強さに惚れ込み自分のパーティへと誘ったが、アレンも今までソロで活動することが殆どだった為首を縦に振らなかった。それでもレイは何度も手を差し伸べる。ほとんど毎日のようにアレンの所へ押しかけては、パーティへ誘う。そんな日々が半年も続き、ついにアレンが折れた。1度だけなら……とパーティへ一時的に加入し魔物討伐任務を請け負う。1度だけのつもりが案外気楽でいられる空気感で、なによりレイや他のメンバーもかなり腕が立つようだ。いつの間にか、パーティーと行動することが当たり前になってきてアレンが思いの外接しやすい存在だと認知されだすと、パーティー加入希望者が出てきた。人数も15人を超えるかと思われる頃レイからある提案がされる。 「アレンさん、私達で旅団を作りませんか?」旅団。それは魔族の討伐を目的とする精鋭集団を指す。「是非アレンさんに団長を努めて欲しいんです」旅団を作ることに異論はないが、団長となると話は別だ。「ボクには人を率いる才能はないよ」丁
last updateLast Updated : 2025-02-03
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それぞれの想い③

宿り木の自室で雲一つない空を眺めながら、アレンはふと懐かしい記憶を思い出していた。この科学の発展した魔法のない世界に来て、既に数年は経っている。いつからか数えなくなりこの世界で生きる覚悟を決めかけていたその時にあのニュースを見た。[異世界へと渡る方法]最初は目を疑ったが、調べていくうちに城ヶ崎彼方という男が編み出した技術らしい、ということが分かった。まずは本人とコンタクトを取らないとと思っていたが意外にもその男は身近に居た。ハルトの学校に居るというではないか。警戒されないように探ってくるよう伝えたその数日後には協力を取り付けてきた。友人と言われるまで絆を深めていたハルトには感謝しかない。それからの日々は激動でしかなかった。魔族の襲撃やハルトの負傷。それにカナタに魔法を教えることにまでなってしまった。うまくいけば、あと数ヶ月で元の世界に帰ることになるが少し寂しさもある。なにせここで数年過ごした為、第二の故郷とでも言えなくはないくらいには愛着が湧いていたからだ。「カナタくん、君もボクらと共に来てくれないかな」想像していた以上の好青年であり、アレンは彼方を気に入り出来ることなら共に異世界へ行きたいと考えながら、空を見上げ一人呟いた。――――――「ただいまー」「おかえりー!!」夕方になり帰路に付くと姉さんが出迎えてくれた。久しぶりに今までの日常に戻った感じがするが、今までと違うのは僕の隣に1人の女の子がいるってことだ。「今日少し聞きたいことがあるから、後でカナタの部屋に行く」アカリがいつもと変わらない無表情で僕に話し掛けてくる。「お風呂上がったらでいい?」「それでいい」いつもと違うのは1つだけ。何か決意したような目をしている、何を聞いて来るのか少し身構えてしまう。晩御飯は冷蔵庫にある有り合わせで作り風呂も入った。後はアカリを待つだけだが、なかなか来ない。もしかして話があるって言ったことを忘れたのか?と考えていると扉を叩
last updateLast Updated : 2025-02-04
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それぞれの想い④

2044年2月28日卒業も後1ヶ月に迫り、世間も卒業シーズンで慌ただしく動いている。先日五木さんからも連絡があり、実験の準備は完全に整った、1度研究所に来てほしいとの事だった。僕の理論が形になってきたと思うと、高揚感に包まれる。足取りも軽く、研究所の自動扉をくぐると既に五木さんが待っており、出迎える為わざわざロビーへ降りてきてくれてたようだ。「お久しぶりです、五木さん」「というよりかはまずは明けましておめでとう、かな?」笑いながらそう話すが、確かに今年になって初めてお会いすることになってしまった事を申し訳なく思い僕はすぐに返答する。「すみません!なかなか研究所へ来ることができなくて」「いやいや、いいよいいよ。君はまだ大学生なんだから学生生活を謳歌しないと」まあでも卒業したらガッツリ参加してもらうよ、と優しく微笑みかけてくれる。女性だったら惚れているなこれは。五木さんの案内に従って、研究所の奥へと進む。見たこともない機材や薬品が所狭しと並ぶ部屋が幾つもある。少し歩くと一際大きな観音扉の前へと辿り着いた。「さあ、ここが彼方君の理論を形にした機械が置かれている部屋だよ」仰々しい扉を脇にあるスイッチで開閉する。大きな石を引き摺るようなズッシリとした音が響きゆっくりと観音扉が開いていく。完全に開ききり中を見渡すと、まるでスタジアムのような広さで真ん中にドでかいドーナツ型の機械がそびえ立っている。「もしかしてあれが?」「そう、あれが異次元空間へと繋がる機械だ。通称異世界ゲート」8メートルはあるだろうか。巨大なドーナツのように真ん中がくり抜かれた物体が縦に置かれており、周囲には五木さんの開発した反重力装置が4つ並ぶ。まるで土星の輪っかのような、そんな印象を描く機械だ。「想像してたより大きいですね」現代の科学の粋を集めて作られた通称異世界ゲート。異世界へ行くことがより現実味を帯びてきたようだ。「もちろんまだ稼働はさせてないよ、立証実験の時が初めて稼働され
last updateLast Updated : 2025-02-04
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それぞれの想い⑤

「いらっしゃいませー!」私、紫音はアパレルショップで元気よく挨拶をする。売上至上主義のこの店は、ノルマが高く設定されているので店員同士での客の取り合いは日常である。私はここに勤めて2年目でそれなりの数字を出せる店員だ。弟が学生なので紫音の働きが生活を左右する。嫌なことは多々あるが辞めるわけにいかない。しかし、最近弟が隠し事をしている気がするのはなぜだろうか。いきなり女の子を連れてくるし、いつもなら晩御飯は一緒に食べるのに最近はたまに外食しているようだ。昔はもっと姉さん姉さんと引っ付いてきて来ていたのに最近ではめっきりなくなってしまった。それが凄く寂しく思えるのと同時に弟が大人になっていく成長を感じられて嬉しくもある。それに今は世界が注目する人物でもあり、歴史に偉業を残すことになりそうで鼻が高い。異世界へ行けるようになったら、世界中から人が押し寄せるだろうし誰もが彼方を褒め称える。嫉妬や妬みを買うこともあるだろう。それでも私はいつまでも味方でいる、どんなことがあっても。それが姉として唯一の出来ることだ。――――――五木さんと研究所で別れ、家に帰ると珍しく姉さんが料理をしている。なにかいい事でもあったのか、鼻歌も微かに聞こえてくる。「ただいま、姉さん。珍しいね料理してるなんて」「ふふーん、たまにはお姉ちゃんらしいことしようかなーなんてね!」何かとは言わなかったがいい事はあったのかもしれないな。深くは聞かずに席に着く。「いい匂いがしてきた」アカリが鼻を膨らませ台所から漂ってくる匂いを堪能していると、料理が運ばれてくる。「見なさい!この素晴らしい出来栄えを!」自慢気に胸を張って出てきた料理は玉子焼き。確かに料理は料理だが思っていたのと違う。もちろん姉さんが気を悪くするようなことは言わないが、もっと凄いのを期待していたせいで残念感が大きい。「味は……美味しい!」滅多に料理なんてしないのに、美味しい
last updateLast Updated : 2025-02-05
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それぞれの想い⑥

2044年3月3日今日は1日雨が降るらしい。窓に打ちつける大粒の雨音がひっきりなしに鳴り続ける。雨の日は勉強の時間だ。雨音をBGMに勉強をすると捗る、気がするのは僕だけだろうか。集中していたせいか、ふと時計を見ると既に14時。姉さんは仕事で家にいないしアカリも珍しく用事があると言って宿り木に戻った為、久しぶりの独りきり。そういえば、春斗から音沙汰がないが何をしているのだろう。携帯に手を伸ばしかけて、思い留まる。今連絡して春斗が暇だった場合、雨であろうと遊びに誘ってくるのが目に見えたからだ。雨の日は外に出たくはない。やっぱり勉強をするに限るな。また参考書に目線を落とし、勉強に戻る。黙々と参考書を読み進めているとふとあの夢の事が気になってきた。人類が滅びる悪夢……本当にそんなことが起きるのだろうか。魔法で悪夢を見せる?何のために?アカリが溢した魔法というワード。それが気掛かりだが、今は考えて仕方が無いか。日に日に募る不安は拭いきれず、研究書類に再度視線を落とした。――――――「貴様らなんのつもりだ?」漆黒の闇に包まれる部屋で、玉座の肘掛けに片肘を突き偉そうに深く座るリンドール。実際偉いことには違いないが、目線の先には膝を付き頭を垂れる4体の魔族。ゾラは冷や汗が止まらぬほどの重圧を感じるが、部下の不始末が原因の為、黙って次の言葉を待つ。「俺は再三警告したはずだ、今はカナタに手を出すなと。それがなんだ?不意討ちを狙って襲撃はするわ、身内を攫って護衛に返り討ちにされるわ、なんのつもりだ?」ゾラの不意討ち、グリードの負傷、それがリンドールの|命《めい》に逆らったことは明確だった。「なんの理由もなく手を出すなと言ったわけではない、計画に支障が出るから手を出すなと言ったのだ!!バカ共が!」怒号が飛び、4体の魔族は冷や汗が止まらない。流石に何も言わず時間が過ぎていくだけでは、リンドールの怒りは収まらないだろう。
last updateLast Updated : 2025-02-05
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