牙も静かに部屋を出て行った。奈津美は冬馬を見て、言った。「......じゃあ、書斎で字の練習でもしようかしら?」「好きにしろ」冬馬は奈津美を見もせず、背を向けて出て行った。奈津美も涼に会いたくなかったので、初に言われた通り、安心して入江家に残ることにした。昨夜とは違い、冬馬は奈津美に構わなかった。午後はずっと本を読んでいた。奈津美が手首が痛くなるまで練習しても、冬馬は何も言わなかった。ついに奈津美は我慢できなくなり、言った。「入江先生、見てください。私の字はいかがでしょうか?」奈津美は手に持った紙を冬馬に差し出した。冬馬はチラッと見ただけで、言った。「続けろ」「何を練習すればいいの?」「難読漢字だ」冬馬はどこからか100個の難読漢字が印刷された紙を持ってきた。奈津美はそれを見て、目の前が真っ暗になった。これらの漢字は日常生活ではまず使わないようなもので、まるで呪文のようだった。しかも、フォントがはっきりしていないので、細かい部分までよく見ないと、ちょっとした曲がりやはねで間違えてしまいそうだ。かなりの筆運びの正確さが要求される。奈津美は右手が使えたとしても、この100個の難読漢字を綺麗に書くのは難しいと思った。冬馬は無理難題を押し付けている。「入江先生......」「書けなければ、帰れ」冬馬の声は冷たかった。まるで奈津美が何を言うか、最初から分かっていたかのようだった。奈津美はプレッシャーに負け、再び100個の難読漢字と向き合った。そして、やっとのことでペンを手に取った。初が戻ってきた時には、外は薄暗くなっていた。彫りの深いハンサムな顔には、疲れの色が浮かんでいた。彼はごく自然に冬馬の書斎のドアを開けた。奈津美がまだテーブルで漢字の練習をしているのを見て、初は驚いて言った。「まだ終わってないのか? 冬馬、女の子にそんなに厳しくするなよ」そう言って、初は奈津美の隣に行き、テーブルの上の呪文のような文字を見て、複雑な表情を浮かべた。「どう? 見られるようになった?」奈津美の期待のこもった視線に、初はしばらく考えてから、やっとこう言った。「うん、なかなかいい字だ。もし、黄色の紙に書いたら、もっと良くなるんじゃないか?」「......」奈津美は
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