ここまで聞くと、やよいは明らかに焦り始めた。今となっては、もう、引っ込みがつかなくなってしまった。黒川家が約束を破り、家に住まわせてもらえなかったら、これからどこに住めばいいのだろうか。「林田さん、落ち着いてください。今、会長に確認してきます」使用人は表向きやよいをなだめながら、ソファに座る黒川会長に視線を向けた。黒川会長は使用人に静かに首を振った。使用人はとっさに言い訳を考え、電話口のやよいに言った。「林田さん、会長があなたに来てもらいたくないわけじゃないんです。黒川社長が、家に余分な人間を入れたくないとおっしゃっているんです。昨夜、会長は社長を叱られたそうなのですが、社長の態度は固く、話がまとまらないんです」「でも......」「林田さん、焦らないでください。確か、アパートの契約はこの月末までですよね?大学にも近いし、もう少しそこに住んでいればいいんです。数日間、黒川家と大学を往復するのは大変でしょうけど、会長が社長を説得でき次第、すぐにお迎えを出すそうですから」使用人の言葉を聞き、やよいはますます焦燥感を募らせた。もう二日間もこの団地で待っているのに、まだ待たなければいけないなんて!しかし、やよいが何か言おうとしたとき、相手は用事があると言って電話を切られた。切られた電話を見つめ、やよいの心は凍りついた。住む場所もなく、お金もない。これからどこへ行けばいいのだろうか。美香は借金を抱えていて、生活費を送ってくれるはずもない。奈津美は滝川家に住まわせてくれるわけがない。こんなにたくさんの荷物、タクシーに乗らなければ、近くのホテルまで運べるわけがない。問題が山積みで、やよいの手は震えていた。さっき、あんなに早く立ち去るべきじゃなかった。せめて、事後の言い訳くらいは考えておくべきだったのに!一方、黒川家では。「会長は、林田さんを住まわせるつもりはないのですか?」使用人は長年会長に仕えているので、会長の考えがよく分かっていた。黒川会長は冷たく言った。「ああいう娘は、素直で使い勝手はいいが、身分が低すぎる。黒川家は誰でも彼でも入れるような場所ではない。彼女が自分から擦り寄って世話をしてくれるというのなら、させておけばいい。涼の側には、ただ言うことを聞く女がいればいいのだ」黒川会長はもともと
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