ドアを飛び出した瞬間、くしゃくしゃになった映画のチケットを破いてゴミ箱に捨てた。 急いで家を出たので、盲導杖まで忘れてしまった。 玄関に置いてあった鉢植えにぶつかり、割れた陶器の破片が足に刺さった。 私は軽くうめき声を上げた。 田中彩香がすぐに気づいて声をかけた。「舟也お兄さん、彼女、怪我したみたい。見に行かないの?」 佐藤舟也は不機嫌そうに言った。 「家出なんかしてさ、ちょっと痛い目に遭わないと、この数年間俺がどれだけ彼女を守ってきたか分からないんだよ!」 「ほっとけ、ぶつかってみないと気づかないんだから!」 田中彩香はため息をつき、「私はこっちの映画のほうが好き。どうせ彼女は行かないんだから、舟也お兄さん、私と一緒に行かない?」と言った。 佐藤舟也は迷うことなく彼女に同意し、私の血があふれ出ていることなどまったく気にしていなかった。 私は足を引きずりながら、心が切り裂かれるような思いで家を後にした。 途方に暮れて街角に立ち尽くし、冷たい風が体を吹き抜けるその瞬間、ようやく後悔した。あの時、彼に自分の角膜を提供すべきではなかったと。 手探りでスマホを取り出し、彼にメッセージを送った。 【別れよう】 なんとも滑稽なことに、私は自分の失明を代償に、こんな婚約者を手に入れたのだ。
最終更新日 : 2024-10-23 続きを読む