彼女はグラスを持ち上げ、一気に飲み干した。ここ数年、健が自分を裏切るとは思わなかった。彼が他の女性と同じベッドにいるのを見た瞬間、まるで心に矢が突き刺さったかのように感じた。「でも、健さんは友梨をとても愛していて、浮気をするような人には見えない。何か勘違いしているんじゃない?」友梨は冷たく笑って言った。「私がこの目で見たのに、それが勘違いだというの?」個室の中が一瞬静まり返り、友梨が次々と酒を飲んでいるのを見て、さくらは思わず彼女の手からグラスを奪った。「たとえあの人が本当に浮気していたとしても、こんなに酔っ払ってはいけないよ。友梨…これからどうするつもりなの?」「もちろん、離婚よ。彼があの女とベッドにいるところを思い出すだけで、気持ち悪くなる」友梨の真っ赤な目と悔しさに満ちた瞳を見て、さくらの胸が痛んだ。「しばらく考えないことよ。しっかり休んで。気持ちが落ち着いたらどうするか考えよう。家まで送るよ。」友梨は首を振って、「いい……戻りたくない」と言った。一度あの家に戻ると、きっとまたあの場面を思い出してしまうだろう。一度思い出すだけで、また気分が悪くなる。さくらは友梨の抵抗を見て、それ以上は言わずに「じゃあ、ホテルを予約してあげるね」と言った。ホテルの予約が終わった後、さくらは友梨をホテルの入口まで送ると、「本当に送らなくていいの?」と少し心配そうに言った。友梨は首を振って、「いい、さくらも早く帰って休んで」と言った。彼女はルームキーを振り、車を降りてホテルに向かって歩き出した。さくらは友梨がホテルに入るのを見届けて、ようやく安心して車を発進させた。しかし彼女が知らないのは、友梨が酔っ払っている時も普段と同じように見えるが、実際には頭の中はもうぐちゃぐちゃになっているということだった。友梨がエレベーターに入り、カードを通すとエレベーターが動き出した。すぐに「チン」という音と共に、エレベーターのドアが開いた。友梨はエレベーターを出てカーペットの上に足を踏み入れた瞬間、すくんで倒れそうになった。隣の壁を支えにしてなんとか立ち直った。それから痛むこめかみを揉みながら、部屋番号を確認しつつ前に進んだ。酔っているせいで、物を見ると目の前が二重に見えた。「8919」を見つけると、友梨はルームキーをド
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