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第2話

彼女はグラスを持ち上げ、一気に飲み干した。

ここ数年、健が自分を裏切るとは思わなかった。

彼が他の女性と同じベッドにいるのを見た瞬間、まるで心に矢が突き刺さったかのように感じた。

「でも、健さんは友梨をとても愛していて、浮気をするような人には見えない。何か勘違いしているんじゃない?」

友梨は冷たく笑って言った。「私がこの目で見たのに、それが勘違いだというの?」

個室の中が一瞬静まり返り、友梨が次々と酒を飲んでいるのを見て、さくらは思わず彼女の手からグラスを奪った。「たとえあの人が本当に浮気していたとしても、こんなに酔っ払ってはいけないよ。友梨…これからどうするつもりなの?」

「もちろん、離婚よ。彼があの女とベッドにいるところを思い出すだけで、気持ち悪くなる」

友梨の真っ赤な目と悔しさに満ちた瞳を見て、さくらの胸が痛んだ。

「しばらく考えないことよ。しっかり休んで。気持ちが落ち着いたらどうするか考えよう。家まで送るよ。」

友梨は首を振って、「いい……戻りたくない」と言った。

一度あの家に戻ると、きっとまたあの場面を思い出してしまうだろう。一度思い出すだけで、また気分が悪くなる。

さくらは友梨の抵抗を見て、それ以上は言わずに「じゃあ、ホテルを予約してあげるね」と言った。

ホテルの予約が終わった後、さくらは友梨をホテルの入口まで送ると、「本当に送らなくていいの?」と少し心配そうに言った。

友梨は首を振って、「いい、さくらも早く帰って休んで」と言った。

彼女はルームキーを振り、車を降りてホテルに向かって歩き出した。さくらは友梨がホテルに入るのを見届けて、ようやく安心して車を発進させた。

しかし彼女が知らないのは、友梨が酔っ払っている時も普段と同じように見えるが、実際には頭の中はもうぐちゃぐちゃになっているということだった。

友梨がエレベーターに入り、カードを通すとエレベーターが動き出した。

すぐに「チン」という音と共に、エレベーターのドアが開いた。

友梨はエレベーターを出てカーペットの上に足を踏み入れた瞬間、すくんで倒れそうになった。

隣の壁を支えにしてなんとか立ち直った。それから痛むこめかみを揉みながら、部屋番号を確認しつつ前に進んだ。

酔っているせいで、物を見ると目の前が二重に見えた。「8919」を見つけると、友梨はルームキーをドアに押し当てた。

だが、「ビー」という音が聞こえず、彼女は眉をひそめてドアを押そうとしたその瞬間、突然ドアが開いた。

友梨は一瞬ぼんやりして反応できなくなった。突然、誰かの手が友梨を暗闇の中に引き込んだ。

「バン!」

と部屋のドアが閉まった。外の光も一緒に消えた。

すると、友梨はドアに押し付けられ、男の気息が耳元に吹きかけられ、思わず震えてしまった。

松の香りがふわっと漂ってくると、友梨はその人にどこかで会った気がした。しかし、反応する間もなく、唇に温かい感触が伝わってきた。

「うーん……」

何が起こったのかがわかると、友梨はすぐに抵抗し始めた。

しかし、男の力は強く、酔っている友梨は柔らかい無力な手で男の胸に押し付けて抵抗しているものの、むしろ拒みつつ迎えているようだった。

男の熱い手が彼女の体に触れると、触れた場所はまるで火に焼かれたように熱くなって、友梨の体も柔らかくなっていった。

彼女が男を押しのけようとしたが、男はすぐに気づき、彼女の両手を頭の上に押さえつけた。

「放して……うう……放して……」

男は彼女の唇を離して、低く笑った。「もう拒まなくてもいいさ」

彼の指が友梨の襟元に触れ、ひんやりとした感触が彼女を震えさせた。

男の体温がまるで彼女を溶かすかのようで、友梨の足も次第に力が抜けていった。

暗闇の中で、触覚が鋭くなった。

友梨は、男の指が自分の服のボタンを一つ一つ外しているのを感じ、徐々に口が乾いていった。しかし、残った理性がこのまま続けば必ず何かが起こると警告していた。

「放して!」

彼女は全力で抵抗したが、結局男に抱き上げられ、ベッドに投げられた。

ベッドがとても柔らかかったおかげで、痛みを感じなかった。しかし、この動きで彼女の頭はさらにぼんやりとしてしまった。

立ち上がろうと必死に抵抗したが、背の高い男が押し寄せてきた。

すぐに、友梨の服は剥ぎ取られ、二人は何も身につけていない状態になった。

男は彼女にぴったりと寄り添い、何かをしようとしている。

侵略的な気配に友梨は震えが止まらず、手を伸ばして男を押し、唇を噛んで冷静になろうとした。

「あの、すみません、私は部屋を間違えたかもしれません。どうか放してください……」

しかし、友梨は緊張しすぎて声が震えていた。

「ちっ!」

男は少し不機嫌で、冷たい口調で言った。「いたずらはいい加減にしろ」

幸四郎が友梨に出て行けと言おうとした瞬間、部屋が明るくなった。

どうやら先ほど友梨が抵抗していたときに、手の甲がうっかりランプのスイッチに当たったようだ。

突然の明かりに幸四郎は思わず目を細め、目の前で横になって驚いている女性を見た瞬間、顔色が一変した。

だが、友梨も幸四郎をはっきりと見てしまうと、恐怖で顔色がどんどん青ざめ、混乱していた頭も覚めた。

思いもしなかった……自分を襲いかけた人が、健の叔父の幸四郎だとは。

「叔父さん……」

実はこの人に対して、友梨は昔から少し恐れを抱いていた。

幸四郎は湯川家の末っ子で、湯川夫婦の高齢で産まれた子供なので、非常に甘やかされて育った。性格は冷酷で、湯川家だけでなく、外の人々も彼を恐れている。

友梨が健と結婚して湯川家を訪れたとき、健は彼女に幸四郎とあまり接触しないようにと注意していた。

「黙れ!」

幸四郎の顔色はかなり悪く、冷たい目で友梨をじっと見つめていて、殺さんばかりの様相だった。

しかし、彼の視線が彼女の胸元の白い肌に触れた瞬間、彼の目が一瞬暗くなった。

幸四郎は目をそらし、ベッドから立ち上がって冷たく言った。「服を着て出て行け!」

彼が立ち上がった瞬間、友梨は見てはいけないところを見てしまった。

彼女は一瞬呆然とし、不自然に視線をそらしたが、耳が赤くなった。

友梨の真っ赤な顔を見て、幸四郎の顔色はさらに悪くなった。

「出ていけ!」

友梨は恥ずかしさを気にせず、急いで服を拾い上げて適当に着て、振り返ることもなく立ち去った。

部屋を出ると、友梨は後ろを振り返って部屋番号を見た。すると、幸四郎の言った「もう拒まなくてもいいさ」の意味がやっと理解できた。

この部屋は8919室じゃない、8916室だ!

間違った部屋に入って、夫の叔父と関係を持ちそうになるなんて……

そう思うと、友梨は二日酔いの頭がさらに痛くなった。

あの時さくらに送ってもらえばよかった。そうすれば、道を間違えることもなかったのに。

しかし、今さら後悔しても遅い……

友梨が去った後、部屋の中で幸四郎は不機嫌な顔をして電話をかけた。

「帝景の今夜の監視映像を全部消せ!」

指示を終えた幸四郎は、乱れた布団を見ながらタバコを吸い、ますますイライラしている様子だった。

自分の甥の嫁に手を出しかけるなんて、一体何なんだ!

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