ちょうど事故が避けられない瞬間、隼人はとっさに手を伸ばし、瑠璃の手首を掴んだ。全力で引き寄せると、黄色信号を無視して突っ込んできた車が彼女のすぐそばを猛スピードで駆け抜けていった。その勢いで隼人の身体はバランスを崩し、後ろへ倒れ込む。そして、腕の中でしっかり抱きしめていた瑠璃も一緒に地面へと転がった。鈍い衝撃音が響く。「大丈夫、もう心配ない」ぼんやりとした意識の中で、彼がそう呟くのが聞こえた。瑠璃はすぐに起き上がろうとしたが、隼人の腕がしっかりと彼女を包み込んでいた。右手は彼女の後頭部を支え、まるで無意識のうちに守ろうとするかのような仕草だった。彼の胸の上に伏せるような形になり、その身体から漂う冷ややかで独特な香りが鼻をかすめる。それは記憶の中にある馴染み深い匂いだった。心臓の鼓動が乱れ、呼吸すらも落ち着かない。この動揺は、先ほどの危機のせいなのか、それとも――ふいに吹き抜けた風に、ようやく鼓動と呼吸を取り戻す。「目黒さん、もう放していい?」彼女の声に、隼人はハッと我に返った。ゆっくりと腕の力を緩める。その瞬間、「瑠璃」と無意識に呼びかけてしまったことを思い出し、微かに眉をひそめる。「ありがとう、目黒さん」瑠璃は立ち上がり、丁寧に礼を述べた。隼人も身を起こし、目の前で無傷の彼女を見て、なぜかほっと息をつく。瑠璃は早くこの場を離れようと理由を探すが、その時、彼の手のひらから血が滲んでいるのが目に入った。昨晩、彼女が手当てした傷口が、また開いてしまったようだ。バッグから消毒シートを取り出し、彼の手をそっと握ると、傷口を丁寧に拭い、ハンカチで優しく包む。隼人は微動だにせず、その様子をじっと見つめていた。整った眉、真剣な表情、ゆっくりと瞬く長い睫毛――まるで小さな羽が彼の心を撫でるようで、言いようのないくすぐったさが胸の奥に広がる。不意に、一拍、心臓がリズムを乱した。「先ほどはありがとう。私はこれで」瑠璃は手を放し、すぐに背を向けた。「送っていく」「結構よ」彼女は歩みを止め、ちらりと彼を見た。「もう、死んだ人間のように扱われるのは嫌なの」その言葉を最後に、瑠璃は路肩に停まっていたタクシーに乗り込んだ。隼人はその場に立ち尽くし、車が視界から消えた後、ゆっくりと手を下ろす。そして
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