美少女との即日婚、冷酷な彼氏からの溺愛 のすべてのチャプター: チャプター 161 - チャプター 170

200 チャプター

第161話

橋本父は心の中で一連の結果を慎重に考えた末、最終的には安全策を取ることに決めた。万が一、黒崎会長の言う通りの結末が実現したら、面倒なことになるのは自分だからだった。彼は慎重に黒崎会長に対して言った。「黒崎、手伝いたいのは山々だが。お前さえ自分の息子を救えないのに、儂に何ができるというんだ」黒崎会長は心の中で冷笑した。先ほどの言葉とは随分違うな。しかし、手伝ってくれるならそれでいいわ。「儂の予想が正しければ、お前の長女のせいで、拓也が出られないんだ。お前が彼女を頼んでみれば、ひょっとしたら融通が利くかもしれないよ」その言葉を聞いて、橋本父は驚きと疑念が入り混じった。彼は美咲よく知ってた。橋本美咲は臆病で気が弱い娘だった。そんなことをするとは思えなかった。しかし、黒崎会長の推測なら、試してみる価値はあると思った。そう言うと、黒崎会長の頼みを承諾し、電話を切った。一方、オフィスで書類に目を通していた橋本美咲は、自分が狼を追い払ったばかりなのに、また別の虎がやってくることなど全く知らなかった。もし知っていれば、すぐにでも会社を移転し、橋本家や他の人々が見つけられないようにしただろう。毎日のように、彼らは蚊のように耳元でブンブンと鳴り続けた。彼らは疲れないかもしれないが、彼女はとっくに疲れ果ててしまった。残念ながら、橋本美咲は今、このことを全く知らなかった。午後、美咲のオフィスに招かれざる客が現れた。橋本美咲は眉をひそめて、目の前の橋本父を見つめ、冷たい口調で言った。「お父さん、会社にきて何の用?」心の中では別のことを考えていた。どうして誰でも私の会社に入れるの?受付や警備は何をしていたの?どうやら、後で注意しに行かないとダメだな。場合によっては、颯真に人を変えてもらおう。美咲は、自分の会社に誰でも自由に出入りできることに、本当にうんざりしていた。橋本父は誇らしげに頭を上げ、上から自分の長女を見下ろした。心の中では、橋本美咲が意外にも成功していることに驚いていた。彼はさっき見た会社の飾付を思い出すと、心の中で長女から得られる利益を計算し始めた。まったく考えていなかったようだ。彼らがすでに橋本美咲にあんなことをしたのに、まだ美咲から何かを得ようとしているなんて。夢を見すぎているんじゃなかったか。「美咲ちゃん、君の黒
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第162話

「これは言うことを聞くかどうかとは無関係だろう。ましてや、黒崎拓也が勝手に私の会社に侵入し、私の助手を傷つけ、さらに私に手を出そうとしたんだよ。それでも、私に黒崎を助けに行けと言うの?」橋本美咲の目には軽蔑の色がよぎった。今回の黒崎拓也、彼女は絶対に助けに行かないつもりだった。アイツを刑務所の中に放っておけばいいわ。「ただの助手じゃないか?」橋本父は凄く苛立っていた。彼は自分の長女を見てますます怒りを感じた。「助手が妹婿より大事なのか?それに、お前は以前、拓也のことが好きだっただろう。二人が結ばれなかったとは言え。「でも彼は今やお前の妹婿だ。妹のことをもう少し考えてやれないのか?しかも、月影ちゃんは今も精神病院にいるんだぞ」幼い頃から手の中で大事にしてきた次女のことを思い出すと、橋本父は心が痛んだ。「お前は一度も見舞いに行かなかった。どうしてもダメなら、月影ちゃんを連れ出してもいいと思うがな。お前はそれでも姉なの?」いいわね!さすがは橋本家の人間だ。厚かましいにも程がある。こんなことをよくも言えたものだ。どの面下げてその話を持ち出せたのかな?黒崎拓也は自分と付き合っている間に裏切り、橋本月影と関係を持った。橋本父はそれを当然のように言い放った。彼女はお前の妹だ。どうしていい姉になれないんだ?本当に呆れた!今回、橋本美咲は、前回の教訓を生かし、橋本父とこれ以上話すつもりはなかった。彼女は冷淡にオフィスの外へ向かって叫んだ。「警備員を、すぐに警備員を呼んで」前回の黒崎拓也の件で、外の人々は凄く敏感になっていた。だから、橋本美咲が警備員を呼ぶのを聞くや否や、すぐに動き出した。そして、警備員も迅速に上階に来た。彼は橋本美咲のオフィスのドアを開けると、目に入ったのは美咲とその前に立つ一人の男だった。その男が橋本社長が追い出そうとしている人物だろうと考えた。彼は数歩前に進み、礼儀正しくも拒否できないような口調で橋本父に言った。「この方、どうか我が社からご退去ください。うちの社長はあなたを歓迎していません」橋本父は信じられない様子で橋本美咲を見た。まさか本当に自分を追い出すとは。「何を言っているんだ?お前らの会社の社長は儂の娘だぞ。父親が娘を叱るのは当然のことだ。他人が口を出すことではない」警備員は眉をひそめ
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第163話

黒崎会長にその話を終えた後、橋本父はすぐに電話を切った。この件についてもう考えるのはやめた。彼の心の中には別のことを考えていた。どうやら橋本美咲は本当に彼らを気にしないようだった。今最も重要なのは、何とかして月影ちゃんを、精神病院から救い出す方法を考えることだった。そして、長年家に置いてあったあるものを思い出すと、橋本父は、必ず自分の思い通りになる様な顔を浮かべた。橋本美咲、たとえお前が今良い夫に嫁いだとしても、そんな態度を取っても、何だというのだ?うちには、お前をねじ伏せるものがあるんだぞ。橋本父は去って行った。後ろの警備員は橋本父の姿を疑わしげに見ていた。こんなに簡単に去るなんて。後でまた来るのではないか?警備員は少し警戒心を抱いた。この前は自分がトイレに行って、ちょっと目を離した隙に、アイツが入り込んでしまった。次はこんなことがあってはならない。警備員は心の中でそう決意した。オフィスにいる橋本美咲は、橋本父に気分を害された後、もう書類の対応を続ける気にはなれなかった。この前の黒崎拓也の件、橋本美咲は何とか乗り越えたものの、まだ少し怖かった。今度は橋本父の件が起こって、大事にはならなかったものの…橋本美咲はとても疲れたように携帯を取り出した。彼女は今すぐ氷川颯真に会いたいと思った。最近起こったことが多すぎて、とても疲れていたから。しかし、橋本美咲は少し躊躇しながら、氷川颯真の番号を見つめた。颯真に電話をかけるべきか。でも、この時間帯は忙しいはずだ。橋本美咲が迷っていると、まるで彼女の心の声を聞いたかのように電話が鳴った。発信者は氷川颯真だった。橋本美咲の目が輝き、すぐに電話に出た。「もしもし、颯真」美咲の声には自分でも気づかないほどの喜びが含まれていた。「何か用事でもあるの?」返ってきたのは、少し心配そうな氷川颯真の声だった。「奥さん、君の助手から、君の父がそっちに行ったって聞いたけど。どう?大丈夫だった?」颯真は凄く心配していた。橋本美咲にまた何か起こるのではないかと、ひどく不安だった。あの時、黒崎拓也に壁に追い詰められた美咲を、見た時の恐怖が蘇っていた。橋本美咲の心は温かくなり、両手で携帯を握りしめた。「大丈夫よ、颯真。さっき彼が入ってきて、少し話したけど、すぐに警備員に追い出さ
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第164話

氷川颯真の言葉を聞いて、橋本美咲は安心した。口元に甘い笑みを浮かべた。「わかった、待ってるね」そう言うと、自分の服を整え、おとなしく階段を下りて、氷川颯真が迎えに来るのを待った。一方、氷川颯真は電話を切ると、冷たい雰囲気を漂わせながら、部長を睨んだ。「誰が僕の電話中に口を挟むことを許可したんだ?」部長は震えながら頭を下げた。「申し訳ございません、社長。でも次の会議は本当に重要なので、次回のチャリティーオークションに関することですから…」部長の声は氷川颯真の冷たい視線の下で、どんどん小さくなっていった。彼は心の中でつぶやいた。社長、あのオークションは、何百億単位の取引ができるようなものなのに、どうして急に帰るんだ?氷川颯真は自社の部長が怯える様子を見て、ようやく満足して視線を戻した。「ただのチャリティーオークションだ。僕、氷川颯真がそんなに金に困っているように見えるか?「その時のことはその時に考えればいい。今は僕の妻の方が大事だ」颯真は助手に向かって言った。「ガレージの車を一台出してくれ。美咲ちゃんの会社に妻を迎えに行く」助手はすぐに命令に応じ、少しのためらいもなかった。社長の側に長い間いた彼は、社長が自分の妻をどれだけ大事にしているかをとっくに見抜いていた。何百億なんてどうでもいいことだ。社長がそんなはした金を気にするか?彼は心の中でそうつぶやいた。一方、隣の部長は、涙が出そうなくらい困り果てていた。うちの社長は、結婚して以来、責任感がなくなって、しょっちゅう仕事を抜け出すようになった。しかも、会議も頻繁に遅刻するようになった。男は女に弱いとは言うが。一体どれほどの美人なら、うちの仕事中毒な社長を、こんな風にさせられるんだ!最も重要なのは、氷川颯真が職務を離れれば、彼が抱えている仕事を、部下に分担してもらわないと、会社全体の運営が成り立たないということだった。一見すると何も問題はないように見えた。しかし、ちょっと考えてみてごらん。氷川颯真の仕事って、普通の人ができると思った?彼の仕事量は普通の人の三、四倍もあるのだ。つまり、今夜も、部長は残業確定ということだった。彼も妻や子供と過ごしたいのに!部長がどう思おうと、氷川颯真はもう帰る決心をした。颯真が階段を下りると、助手がすでに車の外で待っていた。
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第165話

氷川颯真は橋本美咲の視線に気づいた。「どうしたんだ?奥さん、どこか具合が悪いの?」颯真は心配そうに橋本美咲を見つめた。橋本美咲は顔を真っ赤にして、何を言ったらいいのか分からなかった。まさか、ここに座って何を話せばいいのか分からない、なんて言えるわけがなかった。しかし、実際には最初に氷川颯真に電話をかけて、迎えに来てもらったのは美咲だった。この時の橋本美咲は、実は自分が氷川颯真に電話をかけたのではなく、颯真の方から先に電話がかかってきたことをすっかり忘れていた。橋本美咲は首を振って、どもって氷川颯真に言った。「ただ少し疲れただけ」氷川颯真は眉をひそめ、意味深に笑いながら妻を見つめた。「ああ、ただ疲れただけか?」颯真のこの言葉は長く、深い意味を込めて言われた。橋本美咲の顔はますます赤くなった。どうしよう。何をすればいいのか全くわからなかったわ。氷川颯真はそんな橋本美咲を見て軽く笑い声を上げた。まあ、妻をこれ以上からかうのはやめておこう。からかいすぎるのも面白くないから。颯真は橋本美咲の頭を肩に寄せ、優しく宥めるように言った。「疲れているなら、少し寝ていればいいさ。寝ている間に家に着くわ」橋本美咲は氷川颯真の肩に寄りかかった。なぜこんな状況になったの?氷川颯真の優しい言葉に心が安らぎ、橋本美咲はおとなしく目を閉じた。最初は眠くなかったが、知らないうちに眠ってしまった。目が覚めると、美咲は自分のベッドで眠っていて、布団もきちんと掛けられていたことに気付いた。橋本美咲は混乱した。こんなに早く帰ってきたの、さっきまで車にいたじゃない?どうして突然ベッドにいるの?ガチャッ、ドアが開く音がして、氷川颯真が入ってきた。氷川颯真は橋本美咲を見て言った。「奥さん、もう起きたのか。まったく、寝坊助だな。3時間も寝てしまったんだぞ」橋本美咲は恥ずかしそうに口をとがらせ、氷川颯真に文句を言った。「そんなに長く寝ちゃったの、どうして起こしてくれなかったの?」氷川颯真はそんな橋本美咲を見て大笑いした。「奥さんがあまりにも気持ちよさそうに寝ていたから、起こすのが申し訳なくてね。奥さんが自分で起きるまで待とうと思ったんだ」橋本美咲は不満そうに顔を背けた。こんなに寝てしまったから、夜はきっと眠れないわ。氷川颯真はニコニコ笑いながら、数歩
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第166話

食卓で、橋本美咲と氷川颯真は黙々と夕食を食べていた。そばにいた相馬さんは微笑みながら二人を見て、口から思わず感嘆の声を漏らした。「奥様と坊ちゃんも、今日は残業がなくて本当に珍しいですね。普段は夕食を作っても、二人とも、なかなか家に帰ってきて食べてくれませんからね」そのやや恨みがましい言葉を聞いて、橋本美咲は少し恥ずかしそうに頭を掻いた。仕方がないわ。最近会社内の事がますます忙しくなり、人手も足りなかった。どうやら、新しい人を募集しなきゃ。そこまで考えた橋本美咲は、少し現実感がなくなったような気がした。この前の会社は引き抜きで、数人しか残っていなかった。あと一部の社員は、氷川颯真が送り込んできたものだった。その頃の会社は小さく、運営も凄くシンプルだった。しかも、人が多すぎるくらいに感じた。それがまさか、そんなに時間が経たないうちに、自分の会社が人手不足になるとは思いもしなかった。橋本美咲はぼんやりしながら食事をしていた。氷川颯真の目にはその様子がとても可愛らしく映った。自分の妻は、本当にぼんやりしているだけでも美しい。まもなく、二人は夕食を終えた。お風呂に行った。会社から帰ってきた後、全身が埃っぽく感じられた。ましてや、洗わずにベッドで三時間も寝ていたことを考えると、潔癖症の橋本美咲は少し耐えられない気持ちになった。橋本美咲がシャワーを浴びている間、氷川颯真は退屈そうに自分のノートパソコンを取り出し、部長にビデオ会議をかけた。部長がすぐに応じると、目に入ったのは、彼らが会議中の光景だった。部長は氷川颯真のビデオ通話を見ると、思わず喜びの涙を流した。まさか、社長が我々のことを気にかけて、ビデオ通話で会議に参加してくれるとは。氷川颯真はビデオ通話の画面を見ながら、だるそうに電話の向こうの人々に言った。「気にするな。君たちは会議を続けてくれ。僕はここから聞いてるから、何か問題があれば指摘する」部長は大喜びし、すぐに皆で会議を再開した。一方、氷川颯真はそこで無頓着に話を聞いていた。橋本美咲はすぐにシャワーを終えた。彼女は服を整えた。髪が少し湿って顔が赤い以外は、シャワーを浴びたばかりとは見えなかった。おそらく、後で本を読みたいと思っていたからだろう。何はともあれ、橋本美咲が氷川颯真の前に現れると、颯真は彼女を一瞥して
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第167話

橋本美咲は茫然と氷川颯真を見つめ、無意識に答えた。「オークションに参加する?でも、特に欲しいものはないわ」氷川颯真は心の中でため息をついた。他の人ならこんな良い話に喜んで応じたのに、自分の妻だけはその言葉の意味を永遠に理解してくれなかった。たとえ妻が生活の中で何も不足していないとしても、ブランドバッグ、ダイヤモンド、宝石、アンティーク家具のどれか一つは、彼女の好みに合うはずだろう。しかし、いつもこうしたものを欲しがらず、むしろ生活の中で彼をあれこれと世話してくれた。せいぜい、疲れた時に彼に甘えてくる程度だった。それは良くないぞ、妻よ!氷川颯真は目を伏せ、少し不満そうにした。家にいても、自分が夫として凄く無力だと感じていた。「奥さんよ、たとえ君が特に欲しいものがないとしても、オークションには面白いものがたくさんあるんだぞ」それを聞いて、橋本美咲は興味津々になった。「どういうこと?「オークションには私が好きな本があるの?」氷川颯真の顔には微妙な表情が浮かべた。妻が興味を持つ本は、普通の書店でも売っていたし。たとえ希少本であっても人を使って探せば手に入る。しかし、こうしたものは一般的にオークションでは出品されないわ。氷川颯真の表情を察して、橋本美咲は少しガッカリして頭を下げた。「オークションにはそんなものはないのね。じゃあ何のために行くの?」氷川颯真は頭を抱えて橋本美咲を見つめた。「オークションでは宝石やダイヤの指輪、アンティークなど、貴重なものがたくさん出品しているんだ。奥さんが思いつく限りのものが全部揃っているよ」橋本美咲はぼんやりとした。氷川颯真が言いたいのは、オークションにはたくさんの高価なものがあるということだった。「奥さん、そこに行って何か買ってみない?気に入ったものなら何でもいいわ」ああ、これ…美咲は唾を飲み込んで、氷川颯真の無駄遣いを改善する必要があると思った。「颯真、私は高級な宝石が好きではないし、高価なものにも興味がないの。すごく気に入ったものじゃない限り、普通はそういうものには興味がないんだ。もし本当に何か高価なものを買うとしても、千夏と一緒に高級デパートに行って色々見てから、買うことにしてるわ」言い換えれば、必要なものは自分で買うから。氷川颯真に気を使わせる必要はないということだっ
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第168話

橋本美咲は少し戸惑った。「違うわ、そういう意味じゃないの。私が言いたいのは、私は元々颯真たちのその界隈の人間じゃないってこと。「他人から見れば、私は橋本家の娘で、たいした家柄じゃない、ただ…」美咲の声は次第に小さくなり、心の奥底の劣等感が顕になった。頭の中には氷川颯真の母の言葉が浮かんだ。自分を弁えなさい。颯真と一緒にいる資格があると思っているの?氷川颯真は眉をひそめ、橋本美咲の口を押さえた。美咲はそれ以上言葉を続けることができなかった。颯真は真剣な顔で橋本美咲を見つめた。「美咲ちゃん、君は僕の妻だ。僕、氷川颯真が選んだ人だ。それだけで君は大多数の人よりも優れている。「僕から見れば、彼らは塵芥同然だ。僕の妻の足元にも及ばない」橋本美咲はだんだんと静かになった。氷川颯真の言いたいことは理解していた。でも、甘い言葉は誰でも言える。そして、颯真が心からそう思っていることも分かっていた。だけど…氷川颯真は気にしなかったが、橋本美咲は気にしていた。とても気にしていた!美咲はその理由だけで、苦労して手に入れた愛を失いたくなかった。しかし、今の氷川颯真の真剣な顔を見て、彼女は反論する力がなくなり、大人しく頷くしかなかった。氷川颯真はそれに満足して手を下ろした。彼は橋本美咲に向かって言った。「じゃあ、奥さん。明日一緒にドレスを誂えに行こう。僕の妻がどれほど素晴らしいか、皆に見せてやろう」橋本美咲は心の中で苦笑した。素晴らしい?そうは思えない!名門の令嬢たちは、どれも自分より優れていた。しかし、美咲の顔には一切の異変が見られなかった。彼女はうなずいた。「大丈夫だわ、颯真。でも、午後しか空いていないよ。会社である漫画の契約があって、午前中は忙しいの」氷川颯真は気にも留めずに手を振った。「大丈夫、ドレスの誂えはいつでもできるから。奥さんは心配しなくていい」颯真がそこまで言った以上、橋本美咲はもう反対する理由はなかっただろう。時間はすぐに翌日になった。橋本美咲は早朝から会社に行き、木村社長と契約を結ぶ準備をしていた。いつものビジネスカー、いつもの人。しかし今回は、木村社長の橋本美咲に対する態度が少し違っていた。彼の顔には親しみやすい笑顔が浮かんでいたが、表面からは何も読み取れなかった。しかし、明らかに橋本美咲を対等な人間として
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第169話

もしさっきの木村社長が、ただ単に橋本美咲が結婚したことに驚いていただけなら、氷川颯真が、車から降りてきたときにはすでに驚愕していた。彼は目の前の堂々とした若者を見て目を見張った。間違いない。以前氷川グループと小さな取引をしたことがあったから。たとえ、その取引は氷川グループにとっては、小さな契約に過ぎなかったとは言え。しかし彼にとっては大きなチャンスだった。その時、幸運にも氷川グループの社長にお会いすることができた。明らかに、この人は氷川颯真であった。氷川颯真は気にもしていなかった。木村社長なんて彼にとって、まるで空気のような存在で、完全に無視できた。何?彼がかつてこの社長と取引したことがあるって?それがどうしたって言うんだ?氷川グループと取引した会社なんて山ほどあるのに、颯真がなぜ自分よりも世界ランキングが低い人物のことを、気にかける必要があったのか。今、彼の目には自分の妻しか映っていなかった!氷川颯真は橋本美咲のそばに歩み寄り、愛情を込めて美咲の手を取った。「奥さん、仕事が終わった?この後、ドレスを注文しに行こう」橋本美咲はため息をつき、氷川颯真を一瞥した。「まだ客人をもてなしているのが見えないの?こんなに早く来るなんて、午後には会えるのに」美咲は慣れた様子で氷川颯真に不満を言った。颯真は橋本美咲のそんな態度にも構わず、ますます笑顔を広げ、彼女の言葉を寛大に受け入れた。「奥さんに会いたかったんだ」颯真は笑顔で言った。「一日千秋って言うだろ?半日も会わなかったから、少なくとも、その半分は経った気がするよ」二人は周りを気にせずに惚気ていた。木村社長は目を見開いて、橋本美咲と氷川颯真の親密な姿に驚愕した。顔には現実感がないような表情が浮かんでいた。ちょっと待って。さっき見たこの人は確かに氷川グループの社長だったよな?でも、どうして記憶にある人物とは少し違うんだろう?この無限に妻を愛し、ちょっと子供っぽくて口が上手いヤツは誰なんだ?現実感がないが、木村社長は氷川颯真を軽視することはなかった。ただ、心の中で橋本美咲の重要性をさらに高めた。まさか橋本美咲の夫が氷川颯真だったとは。そう考えると、橋本美咲が彼よりも上に行くのは時間の問題だった。そもそも橋本美咲自身の能力も非常に高く、ただ単にリソースと人脈が足りな
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第170話

氷川颯真は満足そうに視線を戻した。「それでは妻を連れて先に失礼するね」氷川颯真は木村社長に軽く会釈すると、橋本美咲の手を引いて、車に乗り込んだ。氷川颯真が去った後、木村社長はほっとした。さすがは氷川グループの社長、その威圧感が半端なかったね。氷川颯真のさっきの一言、もし自分がそれを断ったら、会社が終わるのではないかという感じがあった。彼は額の汗を拭き、橋本美咲の助手に見送られながら、彼女の会社を後にした。車の中で、橋本美咲は不満げに氷川颯真の脇腹の肉をつねった。「さっきどうしてあんなに急いで私を連れ出したの?木村社長を見送る前に行くなんて、非常に失礼よ」橋本美咲につねられた氷川颯真は凄く痛そうだったけど、何も言えず、妻に謝るしかできなかった。「ごめん、ごめん。痛いよ、奥さん。もうつねらないで」氷川颯真が痛がる声を聞いて、橋本美咲は心が揺らいで、手を離した。氷川颯真は急いで痛むところを揉み、顔に笑みを浮かべて橋本美咲に言った。「だって、奥さんに会いたかったんだもん。それに、あの木村社長はきっと寛大だから。そんな小さなことは気にしないと思うよ」「あんたの国語は誰に教わったの?」橋本美咲は呆れた顔で、この社長らしさのない男を見つめた。「寛大ってそういう使い方なの?」「違う!」氷川颯真は堂々と橋本美咲に答えた。「でも、奥さんには寛大に許してほしい」今回、橋本美咲は鼻で笑って、しぶしぶ氷川颯真を許した。橋本美咲のこういう気難しい性格には、氷川颯真もすでに慣れていた。颯真は妻に説明した。「実はこんなに早く、奥さんを呼びに来たいわけじゃないよ。ただ、ドレスを作ってくれる人が、突然ひらめいて、奥さんの採寸をしたいって。しかも、どうしても本人に会わないとダメって」そうでなければ、こんなに早く来るわけがなかった。妻との約束を守ったはずだ。氷川颯真は常に橋本美咲の決定を尊重していたから。氷川颯真の説明を聞いた橋本美咲は、最後のわだかまりも消えた。「わかったわ。それなら、そのデザイナーに会いに行こう」「聞いたか?」氷川颯真は前で運転している助手に冷静に言った。「もっと早く走ってくれ」運転席に座っていた助手は、ようやく現実に戻った。社長の指示に返事をした後、集中して車を運転し始めた。車はすぐに、渋滞が激しい高
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