さくらは、儀姫が数文の銭を拾い集めていた姿を思い出し、本当に行き詰まっているのだと実感した。だが、この一件は厄介な問題をはらんでいた。確かに最初は紹田夫人の母を困らせるだけのつもりだったのかもしれない。しかし結果的には紹田夫人の流産を引き起こし、その後には北條涼子を池に突き落とすまでに至った。しかも北條涼子が泳げないことは、儀姫も承知していたはずだ。つまりは、命を狙う意図があったとしか考えられない。「良くないことは分かってるわ」紫乃は真面目な表情を作りながら言った。「でも、北條涼子が池に落とされたって聞いて、少し笑いそうになってしまって……」そう言うと、「南無阿弥陀仏、お慈悲を」と唱えて、失った功徳を取り戻そうとした。原さくらは眉を寄せた。「理解できないのは、どうしてこんなに愚かなの?もう姫君の身分じゃないし、平陽侯爵家でも疎まれているのに。母上は幽閉され、父上は処刑されたというのに、なぜこんな無茶を……本当に生きる気があるのかしら」「もし生きる気がないのなら、工房に助けを求めたりはしませんよ」有田先生が指摘した。さくらは横目で玄武を見た。「あなたはどう思う?」「まだ知られていない事情があるのかもしれんな」玄武は静かに答えた。「有馬執事も全てを把握しているわけではあるまい。大きな屋敷での醜聞は、普通なら徹底的に隠されるものだ。ただ、少なくとも平陽侯爵老夫人は、儀姫との離縁は避けられないと判断した。おそらく、高利貸しの件も知っていたのだろう」さくらは頷いた。「色々な問題が重なって、老夫人も我慢の限界に達したのね。平陽侯爵様自身は決断力に欠けるし、屋敷を支えているのは老夫人だもの。それに……平陽侯爵様には儀姫への夫婦らしい愛情なんて、最初から無かったのでしょう」「互いに嫌悪し合う夫婦というのは、本当に悲しいものだな」玄武は深い溜息をついた。さくらは軽く相槌を打ったが、その心は夫婦の情愛という方向には向いていなかった。愛情のない夫婦のことを、部外者が論じても意味がない。「工房を開いてから今まで、誰も来てくれなかったわ。儀姫は元姫君だった。もし彼女を受け入れることができれば、良い前例になるかもしれない。ただし……」さくらは慎重に言葉を選んだ。「それは彼女が本当に紹田夫人の子を害そうとしていなかったという前提でね。この件を整理してみまし
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