シャンピンの裏切りに、長公主は決意を固めた。召集された面々の前で、外套を纏いながら椅子に座り、力なく、しかし断固とした口調で告げた。「明日午後、会談を再開いたします。条件は……柔軟に対応しましょう」「柔軟に?」スーランキーの目が見開かれた。「まさか……奴らが国境線の後退を要求しても、受け入れるとでも?」「国境線の問題は一旦保留です」長公主は既に決意を固めていた。彼らの反対など意に介さない。「明後日までに協定を結び、即刻帰国します」「それは不可能……」「これは相談ではありません」長公主の冷たい視線が一同を射抜いた。「わたくしの決定です。不満があろうとも……胸の内に納めておきなさい」スーランキーは激昂して声を荒げた。「独断専行ではありませんか!国境問題を棚上げにして、陛下や朝廷の重臣たちに、民にどう申し開きをするというのです?」「申し開きはこのわたくしがいたします。あなたの心配には及びません」長年朝政を采配してきた長公主の声には威厳が漂っていた。鋭い眼差しには、凛として揺るぎない威光が宿る。「直ちに草案を練り直しなさい。賠償金を増額する代わりに、国境問題は除外するのです。二年後に改めて協議する。わたくしはあくまでも、話し合いでの解決を望んでいます」「弱腰です!これでは示しがつきません!」スーランキーは長公主が急いで帰国しようとする理由を察していた。心の中でシャンピンの愚かさを呪いながら、声を張り上げた。「断じて認められません。国境線の明確な画定は必須です」長公主は手元の香炉を投げつけ、声を震わせた。「すぐに出て行って草案を作りなさい!」北冥親王邸に戻ると、丹治先生も一行に同行していた。議事堂では、一転して力関係が変わっていた。上座に据わる丹治先生の前で、かつての権威者であった皆無幹心でさえ、脇に控えているほどだ。万華宗の弟子たちは、普段は厳しい師叔に頭が上がらないのに、今日ばかりは背筋をピンと伸ばし、まるで「へへ、これで師叔も僕らと同じ立場だね」とでも言いたげな、からかうような視線を送っている。「今回の魂喰蟲は、甲斐の事件で見つかったものと同種です」丹治先生は静かに説明を始めた。「ただし大きさが異なります。甲斐のは大型で、育成に時間を要する。一方、長公主様に仕込まれたのは小型。一、二ヶ月で成長し、血を吸う特性があるため致命
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