「でも、儀姫を追い出せば、こんな騒動に巻き込まれずに済むじゃない」紫乃は自分の意見を曲げようとしなかった。「その後はどうするの?また同じような問題が起きたら?」さくらは静かに続けた。「実は、今回の儀姫の件は良い機会だと思うの。これを一つの試金石として、今後同じようなことが起きた時の指針にできる。まずは偏見を捨てて、しっかりと調査する。本当に非があれば追い出せばいいし、冤罪なら機会を与える。それでどう?」さくらはさらに付け加えた。「ね、偏見を捨てることが大切なの。だって、離縁された女性たちは、どんな罪も着せられかねないでしょう?私たちが先入観で判断していたら、誰も来てくれなくなるわ」「分かってる、分かってるわよ」紫乃は憂鬱そうに言った。「工房のためにはそうするべきなのは理解できる。でも私個人としては、儀姫を受け入れるなんて到底できない。それに、彼女が無実なわけじゃないでしょう?さっさと追い出せばいいのに。ねえ、さくらだって儀姫のこと嫌いでしょう?」「嫌い」さくらは即答した。「だったら、それでいいじゃない!」紫乃は声を荒げた。「自分でも嫌いな相手を、なぜ工房が受け入れなきゃいけないの?私だって最初は大局的に考えて、真相を究明しようとしたわ。でも振り返ってみて。そもそも最初に問題を起こしたのは、儀姫と万紅じゃない?彼女には最初から善意なんてないのよ。工房に入れなければ潰そうとして、今度は平陽侯爵家の連中まで加わって……考えただけで腹が立つわ」「それに、個人的な感情で判断するなって言うけど」紫乃の声は次第に高くなっていった。「そもそも私たちは善意で始めたことでしょう?なのに、いざとなったら個人の感情は無視しろだなんて、おかしいわ。個人の思いがなければ、伊織屋なんて最初からなかったはずよ」「それにね」紫乃は息を荒げながら続けた。「私が儀姫を嫌う理由、それは彼女と母親があなたを虐めたからでしょう?一番怒るべきはあなたのはずなのに、どうしてそんなに彼女を助けようとするの?工房がそんな人たちの避難所になるなら、いっそ開かない方がマシよ」「あなただって嫌いだって言ったじゃない。それなのになぜ、私たちが彼女を受け入れなきゃいけないの?そんな人、追い出して餓え死にしようが、いじめられて死のうが、勝手にすればいいわ。外の人が私たちのことを偽善者だって言うけど
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