清次は、戻ったら離婚届を取りに行くと言っていた。戻った後、清次はその話をしなかったし、由佳も言い出さなかった。由佳は、この結婚生活を少しでも長く続けたいことを、清次が離婚のことを永遠に思い出さないことを望んでいた。しかし、それはただの幻想に過ぎなかった。今は、忘れているだけかもしれないが、いずれ彼はそのことを思い出し、結局、離婚することになるだろう。由佳は、歩美がいなかったら、清次は好きになってくれたのだろうか、と想像することがあった。今、彼女の心には答えがあった。歩美がいなくても、清次は自分を好きにはならなかった。事情をよく知らない店員が近づいてきた。「お客様、カードを探しに来られたんですよね?先ほど店の入口でお客様の落ちたカードを拾いましたので、お返しします」店員はカードを由佳に返した。由佳はそのカードを受け取り、「ありがとうございます」と店員に言った。由佳は振り返ってドアを押し開けて外に出た。清次は音に気付き、振り向くと、由佳が背を向けて去っていったのが見えた。彼女はとても寂しそうに見えた。彼は突然、不快感が湧き上がった。「清次、何を見ているの?」「何でもない」清次は視線を戻し、首を横に振った。由佳はブラックカードを握り、深呼吸をし「高村さん、行きましょう。他の場所を見に行こう」と言った。二人は再び四階を一巡し、バッグやアクセサリーを購入した。疲れた二人は五階のレストランで食事をし、六階の映画を見た。終わった後、午後五時まで買い物をし、夕食を一緒に食べた。夕食は高村さんが食べたいお鍋だった。由佳は肉をしゃぶしゃぶしている時に、ぼんやりしてしまい、飛び散ったスープが手にかかったが、まるで痛みを感じないかのようだった。「由佳、どうしてそんなに不注意なの?」高村さんは焦ってナプキンを取り、すぐに由佳の手を拭いた。由佳の白い手には赤い痕が残っていた。「痛くないの?大丈夫?病院に行ったほうがいいんじゃない?」由佳は笑って首を振り、「大丈夫、帰って薬を塗れば治るわ」高村さんはぶつぶつと文句を言いながら、「どうしたのよ、ぼんやりしていたの?」と尋ねた。「ちょっと考え事があるだけよ。トイレに行って冷やしてくるわ」由佳は水で火傷した部分を冷やした。蛇口を閉めて、鏡から
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