第63話

彼らはとても幸せで、ロマンチックに見えた。

それに比べて、彼女がかつて最も大切に思っていた三年間の結婚は、結局他人が巧妙に仕組んだ嘘だった。全てが偽物だったのだ。

偽物だからこそ、彼は完璧なのだ。

由佳の心は痛く、息をするのも苦しいほどだった。

携帯電話のベルが鳴った。高村さんからの電話だ。

由佳は電話を取った。「もしもし、高村さん、さっき知り合いに会って少し話していたから、すぐ戻るわ。」

彼女は電話を切り、足を重く引きずりながらレストランに戻った。

そこには、山口清次のブラックカードで購入した品々が置いてあった。

「高村さん、食事が終わったら、この服全部返品したいの。」

「返品する？どうして？」高村さんは不思議そうに聞いた。

「実はこのブラックカードは私のものじゃなくて、家族のものなの。無断で使ったのがバレると困るから、返品したほうがいいと思って。」

「分かった、一緒に戻ろう。」

豪華な買い物を見た店員は非常に丁寧で、素早く返品手続きをしてくれた。

返品した後、由佳は自分のカードを取り出して、同じ服を購入した。

高村さんは呆れた、「面倒くさいな、お金を返せばいいじゃない。」

由佳は微笑んだが、何も言わなかった。

その後、二人はお互いに別れを告げた。

すでに七時近くになっていた。

由佳は考えた末、タクシーで劇場へ向かうことにした。

祖母と約束したので、これが最終回だと決めていた。

もちろん、由佳は山口清次が来るかどうかがわからなかった。

劇場に到着したのは七時半ぐらいだった。

ホールは非常に賑やかで、人で埋まっていた。

由佳は前方に進んで自分の席を見つけて座った。隣の席は空いていた。

七時半になるとホールが暗くなり、舞台の照明だけが残った。

観客も静かになり、微かに囁く声だけが聞こえた。

司会者が舞台に上がり、挨拶を述べ、幕開きを宣言した。

由佳は瞬きをして隣の空席を見つめていた。

やはり彼は来なかった。

その空席は由佳の荷物置き場になった。

初めは少し落ち着かない気持ちだったが、舞台上の役者たちに引き込まれ、完全に物語の中に入っていった。

突然前方に男性が現れた。

由佳は少し頭を傾けて舞台を見続けた。遅れて来たなら、腰をかがめて歩くべきなのに、視界を遮って失礼だと思った。

本当に非礼だ。

その男性