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第61話

山口清次は、出張から戻ったら離婚届を取りに行くと言っていた。

戻った後、山口清次はその話をしなかったし、由佳も言い出さなかった。

由佳は、自分自身的にこの結婚を少しでも長く続けたいことを、山口清次がそのことを永遠に思い出さないことを望んでいた。

しかし、それはただの幻想に過ぎなかった。

今は、忘れているだけかもしれないが、いずれそのことを思い出し、結局離婚することになるだろう。

由佳は、歩美がいなかったら、山口清次は好きになってくれたのだろうか、と想像することがあった。

今、彼女の心には答えがあった。

歩美がいなくても、山口清次は自分を好きにはならなかった。

事情をよく知らない店員が近づいてきた。「お客様、銀行カードを探しに来られたんですよね?先ほど店の入口でお客様から落ちたカードを拾いましたので、お返しします」

店員は銀行カードを由佳に返した。

由佳はカードを受け取り、「ありがとうございます」と店員に言った。

由佳は振り返ってドアを押し開けて外に出た。

山口清次は音に気付き、振り向くと由佳が背を向けて去っていくのが見えた。彼女はとても寂しそうに見えた。

彼は突然、不快感が湧き上がった。

「山口清次、何を見ているの?」

「何でもない」山口清次は視線を戻し、首を横に振った。

由佳はブラックカードを握り、深呼吸をして「高村さん、行きましょう。他の場所を見に行こう」と言った。

二人は再び四階を一巡し、バッグやアクセサリーを購入した。

疲れた二人は五階のレストランで食事をし、六階の映画を観た。終わったら、午後五時まで買い物をし、夕食を一緒に食べた。

夕食は高村さんのほしいの鍋だった。

由佳は肉片をしゃぶしゃぶしているときにぼんやりしてしまい、飛び散ったスープが手にかかったが、まるで痛みを感じないかのようだった。

「由佳、どうしてそんなに不注意なの?」高村さんは焦ってナプキンを取り、すぐに由佳の手を拭いた。

白い手には赤い痕が残っていた。

「痛くないの?大丈夫?病院に行ったほうがいいんじゃない?」

由佳は笑って首を振り、「大丈夫、帰ったら薬を塗れば治るわ」

高村さんはぶつぶつと文句を言いながら、「どうしたのよ、ぼんやりしていたの」と尋ねた

「ちょっと考え事があるだけよ。トイレに行って冷やしていくわ」

由佳は冷水で火傷した部
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