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会社を辞めてから始まる社長との恋 のすべてのチャプター: チャプター 711 - チャプター 720

756 チャプター

第711話 君を巻き込みたくない

狛村静恵は反論しようとしたが、その前に森川貞則が口を開いた。「一度この旧宅を出たら、もう二度と戻ってこられると思うな。それから、出たら何が起こるかも俺は保証できんぞ」貞則は、静恵が旧宅を出ることはないと確信していた。いかんせん、彼女は旧宅出て行って人を殺したことをばらされるのを恐れるだろう。貞則がまだそのことを人に教えていないのは、彼女がまだ森川次郎のオモチャでいるから。次郎がまだ彼女に飽きていないうちは、貞則は不本意だが彼女に手を出さないでいるつもりだった。静恵の目は恨みに満ちていたが、それ以上乞っても無駄だと分かったので、歯を食いしばって部屋に戻ることしかできなかった。川眺めの別荘にて。竹内佳奈は今日もたくさんの物を持って渡辺翔太のお見舞いに来た。翔太はソファで寝ていて、両目を腕で覆っていた。彼の周り、そして床にはたくさんの紙切れと写真が散らかっていた。おそらく、資料を読んでいて寝落ちしたのだろうと佳奈は思った。佳奈が翔太の傍に行き、散らかっているものを整理しようとした時、翔太は急に目覚めた。彼は慌てて体を起こし、資料を纏めて体の後ろに隠した。「来てたのか、起こしてくれればよかったのに」翔太は床に散らかっている資料を片付け始めた。佳奈は何も言わずに翔太を見て、彼が全て全部片付けるのをまってから口を開いた。「翔太さん、どうして私をそんなに警戒しているの?」佳奈は戸惑いながら尋ねた。「昨晩言ったろ?こんな揉め事に君を巻き込みたくないって」翔太は淡々と説明した。「一体どんな揉め事なのよ?」佳奈は思い切り聞き出した。「この前、会社の移転を手伝わせてくれたのに、今度は何で素直に教えてくれないの?私はあなたの敵じゃないのよ!教えてくれれば、一緒に対策を考えることができるじゃない。ちょっと今の自分を見てみてよ、もう廃人になりかけているわよ」「おっ、食べ物を持ってきたか。ちょうど腹が減ってきた。先に食べよう、な?」そう言って、翔太は佳奈が持っているものに手を伸ばした。しかし佳奈は一歩後ろに引いた。「翔太さん、私たちの仲って、そんなによそよそしいものなの?」「佳奈……」翔太は疲弊した様子で言った。「飯を食べてからにして、いい?」「もし私を本当
last update最終更新日 : 2024-12-07
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第712話 無意識に試している

「違う」翔太は辛そうな顔で否定した。「俺が無能だから、奴をこの手で殺せないんだ。それどころか、紀美子がそのことで晋太郎を受け入れないのを分かっていながら、復讐のために、彼女に晋太郎に頼むように要求した。俺なんか、所詮ただの臆病者だ」佳奈が暫く考えてから言った。「違うわ。紀美子さんと森川社長派もともと似合っていると思わない?」「君はそう思っているのか?」翔太は少し驚いた。「翔太さんはそう思ったことはないの?あなたは、紀美子さんがまだ森川社長を思っていることを知っているから、彼女にそう頼んだ、私はこう解釈したわ。今回のことにおいても、翔太さんはいつも紀美子さんの意見を伺っていたよね?強要なんか、これっぽちもないよね?」「何だか俺のために言い訳を作っているように聞こえるな」翔太は目を垂らした。「言い訳なんかじゃないわ。あなたは、森川社長が紀美子さんのことを思っていること、それに彼が彼女の助けになれると分かっているから、そう頼んだ。あとは……翔太さんが無意識で彼女を試している、とか?」翔太は、あの時は一体どんな心境で紀美子にそんな話をしたのか、自分もよく分からなかった。「やっと分かったわ。あなたは森川家が怖いのではなく、紀美子さんに申し訳ないと思っているのね」佳奈は立ち上がり、持ってきた袋から牛乳を出して翔太に渡した。翔太は沈黙したままだった。確かに彼は紀美子に申し訳ないと思って、ここ数日ずっと家に籠って色んな解決策を探していた。「翔太さん、あなたは紀美子さんに申し訳なく思う必要はないわ。あなたはただ、彼女に未来を選択する権利を与えたまでよ」翔太は何も言わなかった。「はいはい、今回のことはいずれ解決されるから、今はとりあえずご飯にしましょっ!」佳奈は翔太の肩を叩きながら言った。「食べ物を買ってきたんじゃなかったのか?」「いいの!気晴らしがてら!」佳奈は翔太の腕を引っ張った。……夜。田中晴は鈴木隆一を連れて杉浦佳世子の家に訪ねてきた。しかしそれは隆一が要求したのであり、晴が自発的に彼を誘ったわけではなかった。隆一は佳世子の名義を借りて入江紀美子に近づき、親友の恋を救ってあげたいと考えていた!彼らが訪ねてきた時、佳世子は家のソファに座っていて、
last update最終更新日 : 2024-12-07
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第713話 誰もが分かっていた

怒鳴られた杉浦佳世子は弱気になって首を縮めた。自分に非があるので、彼女はそれ以上田中晴にふざけようとしなかった。「晴、せっかくお友達を連れてきたんだから、もう喧嘩をやめようよ。今日のことはまた夜に話そう、とりあえずお友達をおもてなしして」「気にしなくていい!」「私が気にするわ!」佳世子は口をすぼめて文句をこぼした。「あんたも、友達の前で子供のように叱らないでくれる……?」「晴、アイスクリームごときで奥さんと喧嘩するなよ……」鈴木隆一も傍で慰めた。「お前は黙ってろ!」晴は思い切って佳世子を責めた。「子供はまだ形になっていないし、万が一アイスクリームの冷たさで何かがあったらどうする?」ついでに怒鳴られた隆一は、大人しく口を閉じた。晴はゴミ箱を置き、台所からお湯を一杯注いできて、佳世子に「飲め」と渡してから、隆一に向かって言った。「ささ、座って。うちは狭いけど、我慢して」「大丈夫」隆一は佳世子の隣のソファに腰を掛けた。「ここは奥さんが買った家なの?」「違う、借りたの」佳世子は説明した。「晴、奥さんに家を買ってやらないのか?」「違う、私が引っ越しが面倒なの。晴が、この家の家賃を3年間分払ってくれたし」「なるほど。そう言えば、君は紀美子の親友だよね?とても仲がいいと聞いているけど」それを聞いた佳世子は、すぐに警戒した。「どうして紀美子のことを聞いてくるの?」「俺が聞きたいのは、紀美子はまだ晋太郎のことを思っているかどうかだ」隆一は慌てて説明した。佳世子は答えずに視線を隆一から晴に移した。「あんたが彼に頼んだの?」「こいつが勝手についてきたんだ。俺は関係ないよ」晴は首を振って否定した。「ごめんね、紀美子のことは教えられないの!」「ちょっと助けてよ、俺はあの2人を別れさせるために来たわけじゃない」隆一は晴に助けを求めた。「彼は本当に助けてもらいたくてここに来たんだ。紀美子と晋太郎に仲直りしてもらいたいと」「この件は紀美子のプライベートなのに、何であんた達が横から手を出すのよ!」佳世子は怒った。「あんた達は自分の親友の為に頼んできたのかもしれないけど、私だって自分の親友を守りたいの!その頼み、私は断る!」「これは紀美子の為でもあ
last update最終更新日 : 2024-12-08
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第714話 素直に教えるべきだった

「まあまあ、そう興奮するなよ、赤ちゃんに悪いし。俺も晋太郎からそう聞いただけ。最近、彼はその件を処理しているようだ」そう言ってから、田中晴は慌てて杉浦佳世子を落ち着かせた。「処理?父親の罪を隠すの?!」佳世子は感情を制御しきれない様子で再び尋ねた。「違う、何を考えてんだよ!彼は父親に法の裁きを受けさせるつもりだ」晴は説明した。その話を聞き、佳世子はほっとした。「まさか、晋太郎が紀美子の為にそこまでするとは」佳世子は感服した。鈴木隆一は、チャンスが来たと見てすかさず口を開いた。「だから、晋太郎の身になって考えてあげるべきじゃないか?」佳世子は暫く考えてから答えた。「じゃあ、先に紀美子の意思を聞いてみる。これでいい?」「今聞いてくれてもいいかな?」紀美子は呆れた。どうやら今この場で隆一に回答しないとケリがつかないようだ。彼女はテーブルに置いていた携帯を取り、紀美子に電話をかけた。電話派すぐに繋がった。「佳世子、どうかしたの?」「紀美子、今何してるの?」「顔を洗ってるけど」電話の向こうから水が流れる音がした。「あのね、あなたのお父さんのことを晴から聞いたんだけど……」そう言って佳世子は相手の反応を伺った。紀美子は、暫く沈黙してから口を開いた。「うん、その件で晋太郎の所に行ってきたわ」「えっ?」佳世子は驚いたふりをした。「彼の所に行ってきたの?彼は何て?」「あれ、晴が言ってなかった?」紀美子は戸惑った。「いいえ、まだ晴からはその話は聞いていないけど、晋太郎は何か言った?」「彼は、私の為にも、彼の母の為にもこの件を解決しなければならない、と言ったわ」「彼は本当にそう言ったの?たとえ自分の実の父と絶縁することになっても?」「そう。私も彼のその断固とした姿勢に驚いたわ」佳世子は足で晴に、お湯が入ったコップを持ってくるように合図をした。晴は大人しくすぐ持ってきた。「フン、恐妻家め」それを目撃した隆一は、心の中で彼を蔑んだ。「それで、あなたは今晋太郎に対してどう思っているの?」佳世子はお湯を一口飲んでから聞いた。「彼がここまで考えてくれているから、私もこれ以上彼にこの件で拗らせるつもりはないわ。なにしろもう過ぎたこ
last update最終更新日 : 2024-12-08
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第715話 説明してくれたし

入江紀美子は森川晋太郎の名前の所が「入力中」と表示されているのに気づいた。しかしいくら待ってもチャットメッセージが受信されないので、晋太郎が何かをためらっているのだと分かった。「言いたいことがあれば素直に話して?」晋太郎は紀美子のメッセージを見つめながら、まだ黙っていた。隠さずに言った方がいいかもしれない。「今日、狛村静恵が訪ねてきた。助けてほしいとのことだった」晋太郎は紀美子にそう伝えた。「どういうこと?」助けてほしいとはどういう意味?「彼女は次郎の奴に虐待されているらしい。オヤジの状況を探ってくれる代わりに、助けてほしいと」「静恵は何が分かったというの?」晋太郎は眉間をつまんだ。携帯でのチャットという連絡手段が面倒く感じたのだ。彼は暫く考えてから、携帯をしまいコートを持って書斎を出た。そうも知らず紀美子は大分待ったが、晋太郎からの返信がなかった。もともと眠かった彼女だが、晋太郎との会話で完全に眠気が覚めた。彼女はベッドから降り、下から果物を取ってきて相手の返信を待つことにした。しかしスリッパを履いた途端に、下から車のエンジンの音が聞こえてきた。こんな遅い時間に、誰が訪ねてきたんだろう。窓越しに下の様子を見て紀美子は驚いた。来たのは晋太郎の車だった。なぜ彼が急に来たのだろう。晋太郎は車から降りてきて、紀美子は慌ててソファにかけていたブラジャーを見た。彼女の顔は赤く染まり、慌ててクローゼットにそれを隠した。そして適当に服を整理していると、ノック音が聞こえてきた。紀美子が慌ててドアを開けると、晋太郎が玄関の外に立っていた。「こんな寒い時に何でわざわざ来たの?」紀美子が心配してくれるのを聞いて、晋太郎は微笑んだ。「いつまで俺を外に立たせる気?」紀美子は横によけて、晋太郎を中に入れた。ドアを閉め、2人はソファに腰を掛けた。紀美子の部屋にはソファが1つしかなく、小さいものではないが、2人が座るには、もう殆どスペースが残されていなかった。晋太郎は彼女の部屋を見渡した。寝る時間だったのだろうか、小さな暖かい光の電気しか着いていなかった。部屋には暖房が入っていたので、コートを着たままの晋太郎は、背中に汗がにじんだ。紀美子が口を開こうとすると、
last update最終更新日 : 2024-12-08
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第716話 生え直し

森川晋太郎はゆっくりと手を伸ばし、彼女の髪をまとめた。「俺は、君が警戒せずに俺と落ち着いて会話してくれる姿が好きだ」入江紀美子は呆然と彼を見た。心は彼の言葉に合わせて強烈に鼓動していた。晋太郎に少し冷たい指で肌を触られた紀美子は、一瞬で全ての理性を失った。彼女は唇を動かし何かを言ってその気まずい空気を打破しようとした。しかしまるで喉が塞がれたかのように全く声が出なかった。もしかしたら、彼女自身がそれを望んでいなかったのか……晋太郎の視線は彼女の薄紅色の潤った唇に止まり、手も視線に合わせて彼女の顎まで動かした。体が近づいてくると同時に、彼は細長い指に力を入れ、彼女の顔を軽く持ち上げた。久しぶりに彼の息が彼女の鼻先にかかり、彼女の呼吸も合わせて早くなった。晋太郎にキスされた瞬間、2人の心の間にあった壁が一気に崩れ去った。絡み合う接吻は優しくて長かった。紀美子の意識が朦朧になりかけた瞬間、晋太郎は彼女の体を抱き上げ、自分の上にのせた。彼は首を傾げ、唇を紀美子の耳元に当て、かすれた声で囁いた。「紀美子、俺から離れるな」……翌日。竹内佳奈のいない日、家にいる皆が太陽が高く昇る頃まで寝ていた。子供達が顔を洗って下に降りると、書斎にもリビングにも紀美子の姿が見つからなかった。入江ゆみは減り切ったお腹を揉みながら、「お母さんはどこ?ゆみお腹空いたよ」と言った。入江佑樹はあくびをしながら、「多分まだ寝てるだろう、ちょっとみてこよう」と答えた。森川念江とゆみが頷き、佑樹と一緒にまた2階に上がった。紀美子の部屋の前に来て、佑樹はノックした。「お母さん、起きた?」しかし暫く経っても返事が一切なかった。佑樹は眉を寄せながら、ノブを回してドアを押し開いた。中を覗くと、電気が点けっぱなしの寝室のベッドの上に、布団を被った2つの人の形をした凹凸が見えた。彼はすぐに察して慌ててドアを閉めた。後ろで部屋の中の様子がよく見れなかった2人は呆然として佑樹を見た。「何でドアを閉め……」ゆみがまだ最後まで話さなかったうちに、口を兄に手で塞がれた。そして彼は念江に、まずは部屋に戻ってから話そうと目で合図をした。こうして、子供達は部屋に戻って、ドアを閉めた。佑樹は緊張した様子でツ
last update最終更新日 : 2024-12-08
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第717話 何でそんなことがわかるんだ

子供達が朝食を食べ終わる頃になっても、入江紀美子と森川晋太郎はまだ部屋から出てこなかった。先に起きたのは露間朔也だった。子供達だけがリビングで遊んでいるのを見て、朔也は戸惑いながら周りを見渡した。「君たちのお母さんは?」「晋太郎がお母さんを抱いて寝てるよ」「なに?!彼はここにいるのか?いつ来た?何で教えてくれなかった?!」質問攻めにされた入江佑樹は、どれも答えられなかった。「僕だって分からないよ」「佑樹くん、お父さんが来たことに怒ってるの?」森川念江が尋ねた。「当たり前だろ」佑樹は悶々とした様子で答えた。念江はため息をついた。一体どうやって佑樹に説明したらいいか分からなかった。ことの経緯を整理できた朔也は、子供達の後ろにきて、手を佑樹の肩に置いた。「あのな、佑樹くん、お母さんはただお父さんと恋をしているんだよ」朔也はにニヤニヤしながら説明した。佑樹は朔也の手を振り落として、「彼達が何をやってるか、僕は分かってるんだよ!」と言った。「おいおい、何でそんなことが分かるんだよ!」朔也は真顔で注意した。佑樹は「フン」と鼻を鳴らした。「こう考えるべきだ、お父さんがいなかったら君たちも生まれていない、そうだろ?何と言っても、彼は君たちの実の父だからね!」「実の父がどうしたの?」佑樹はあざ笑いをした。「彼は父親としての責任を果たしてくれた?」佑樹は、自分でもどうしてそんなことを口にしたか分からなかった。しかし、そのことが母の自発的な行動ではなかったことを思い出すと、心の中で怒りと苛立ちを感じた。「そうだったかもしれない。でも彼の心の中では君たちのお母さんが、とても重要な人に違いないんだ!」朔也は確信した。「あなたが確信してどうすんだよ」佑樹は反論した。「まあまあ、佑樹さんよ、もうそっとしてあげなよ。君のお母さんは晋太郎のことが好きなんだから!だってこの時間になっても起きてこないんだろ?」佑樹は口をすぼめながら、小さな顔を曇らせた。もともと備わっていた優雅さが、憂鬱な気分によって失われた。「佑樹さん、たとえばお母さんが晋太郎のことを受け入れたら、君はどうする?」朔也は尋ねた。「お母さんがいいなら、僕も同じだよ」佑樹は即答した。
last update最終更新日 : 2024-12-09
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第718話 昨晩は何をしていた?

2人が顔を洗い、部屋から出ようとした時、森川晋太郎は急に口を開いた。「隣の別荘って、まだ売り出していないよな?」「うん、土地が高いから、なかなか見に来る人もいないのよ」入江紀美子は答えた。「そうか」晋太郎は淡々と返事して、部屋のドアを開けた。「行こう」紀美子はあまり彼の話を気にせず、一緒に階段を降りた。1階にて。足音に気づいた子供達は、一斉に晋太郎と紀美子の方を見た。階段の曲がる所まで降りてきた紀美子は、一瞬で複雑な感情を持つ視線を感じた。一方、前を歩いていた晋太郎は明らかなる敵意を感じた。その敵意は入江佑樹からのものだった。弱気になった紀美子は、子供達に目を合わせられなかった。自分が爆睡しただけではなく、晋太郎が来てここで寝泊まりしたことさえ、前もって彼らに教えていなかったからだ。晋太郎は何も無かったかのように、子供達の前に来た。「飯につれていってやる」「やったー!」入江ゆみは立ち上がってはしゃいだ。「アイチバーガーに行きたい!前連れていってくれたお店!」「だらしないよ!」佑樹は妹を睨んだ。ゆみは兄の言葉をの意味をしっかり受け取った。「お兄ちゃんったら、もう捻くれるのやめて!本当に子供みたい!」紀美子も彼らの傍に来ていた。ゆみの話を聞いて、彼女は顔色が暗くなった息子を見つめた。「佑樹くん?」紀美子は彼に声をかけた。佑樹はまっすぐと立ち上がり、紀美子の腕を横に引っ張った。「お母さん、ちょっと2人きりで話したいことがある!」紀美子は、晋太郎に「ちょっといってくる」と目で合図を送った。しかし晋太郎はそんなことも構わずに、手を伸ばして紀美子の腕を掴み、佑樹に言った。「要件があれば俺に言って」「何であなたに話さなきゃならないんだよ!」佑樹は晋太郎の方に振り向いて言った。「お前は男だろ?男なら男同士で語り合うべきだ!」晋太郎は冷たい声で言った。「晋太郎」隣で焦って紀美子が彼に注意した。「佑樹くんはまだ小さいから、そんなに厳しく言わなくても」「彼のハッキングの腕は、俺の会社のエンジニア達を完全に上回っている。そんな彼に俺の話が分からんとでも?」紀美子は驚いた。息子はそんなに凄かったのか。「さぁ、男同士で話
last update最終更新日 : 2024-12-09
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第719話 休学

入江佑樹は唇をへの字にして視線を逸らした。「答えられないのか?それともこれじゃあ足りないと思っているのか?」森川晋太郎はさらに聞いた。「それはある程度の説得力はあるけど、お母さんを愛していると証明するにはまだ足りない!」佑樹は言い返した。「じゃあ、どうすれば認めてくれる?」「僕は男と女とのことが分からないけど、ただ、お母さんが楽しくて、あなたの為に泣いたりしなければ、それが愛だと思う!」「その通りだ。」晋太郎は佑樹の話を肯定した。「しかし、大人の間では、意見が分かれたり、お互いのやり方に不満があったりするのもよくあるということを、分かってもらいたい。俺と紀美子はこれまでたくさんの誤解があった。しかしその誤解を一つずつ解いていけば、もう喧嘩や食い違いは生じないはずだ」「つまり、あなたはもうお母さんと仲直りしたの?」佑樹は続けて聞いた。「大体な」晋太郎は答えた。「一つ約束してもいい」「約束?」「もし君のお母さんが俺と一緒になってくれれば、俺は彼女を世界で一番幸せな女にする」「それって、本当?」佑樹は晋太郎を見上げて聞いた。「そうだ」晋太郎は真顔で答えた。「じゃあ、拳を当てて誓って!」佑樹は立ち上がり、晋太郎の前に来た。「嘘をつく人は死んだら地獄に落ちる!」晋太郎の俊美な顔が厳しくなった。「誰からそんなことを教わった?」「誓えないのなら話は終わりだ!」「今回はそれでいいが、今度そのようなことを口にしたら、厳しく正してやるからな!」晋太郎は目を細くして言った。「分かった!」晋太郎は手を出して佑樹と拳を当て合った。晋太郎は、佑樹のような物知りの子供に対しては、約束さえしてあげれば、これ以上捻くれることはないと分かっていた。子供とは、それほど単純な生き物だ。それと同じく、晋太郎の誓いも本気だった。彼は約束通りに紀美子を幸せにし、すべての悔しさを償ってあげると決めた。そして、2階から降りてきた時、佑樹は既にいつもの顔に戻っていた。「佑樹くん?」紀美子は慌てて状況を確認しようとした。「まだ怒ってるの?」佑樹は優雅に笑みを浮かべた。「僕はそんな話の通らない人か?」「フンだ、さっきの捻くれてたヤツはだ~れだ?」ゆみが
last update最終更新日 : 2024-12-09
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第720話 いつ戻ってくるの?

森川念江は母の話の意味に気づいた。「お母さん、これから忙しくなるの?」入江紀美子は頷き、優しく微笑んで答えた。「そうなの。お母さんの会社はとっても大きなお仕事を引き受けたから、来週から出張に行かないといけないの」念江は少し落ち込んで表情を暗くした。「いつ戻ってくるの?」「二、三日後かな?まだ分からないの」「一人でいくの?」「そう」紀美子はため息をついた。「朔也おじさんはちょっとした用事で、工場に残らないといけないの。でも佳奈お姉さんももうすぐ戻ってくるし、彼らに君たちのことを頼んでおいたわ」この時、紀美子の携帯が急に鳴り出した。竹内佳奈からのメッセージだった。「紀美子さん、申し訳ないけど、暫くお休みを伸ばしてもらうことになるかも。翔太さんは悔しさで立ち直れないみたいなの……」紀美子は眉を寄せ、返事をした。「兄がどうしたの?」「どうやら彼は、お父さんの件であなたに晋太郎さんに頼ませたことを、とても悔しくてしかたないようなの」「……気にしなくていいのに。兄は今傍にいるの?」佳奈はまだソファで寝ている翔太を見た。彼女は差し入れで持ってきた果物をテーブルの上に置いてから、紀美子に返信した。「ソファで寝ていて、周りに資料の紙が散らかっている。ここ数日はずっとこんな感じだわ」佳奈は部屋の様子の写真を添付した。渡辺翔太の目元にはくまができており、あごの髭も伸びていた。「佳奈、ごめんね、兄の世話をしてもらっちゃって」「ううん、全然大丈夫だよ。将来、私が翔太さんと結婚したらよろしくね!」「うん!」携帯をしまい、紀美子は夜になったらじっくり兄と話をしようと決めた。兄に頼まれて森川晋太郎にお願いをした件に関しては、彼女は特に気にしていなかった。まさか彼がここまで気にしているとも思わなかった。午後。紀美子は念江と一緒に佑樹とゆみを迎えに行った。佑樹はリュックを背負っておらず、ゆみの方が重そうなリュックを背負っていた。2人が車に乗り込んだ途端に、ゆみは母に文句をこぼした。「お母さん、ゆみはもうだめ!」念江はゆみのリュックを外し、妹の肩を揉んだ。しかしゆみは死んだ目で佑樹を睨みつけた。3人の子供達の様子を見て、紀美子は苦笑いをした。念江は妹
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