狛村静恵は反論しようとしたが、その前に森川貞則が口を開いた。「一度この旧宅を出たら、もう二度と戻ってこられると思うな。それから、出たら何が起こるかも俺は保証できんぞ」貞則は、静恵が旧宅を出ることはないと確信していた。いかんせん、彼女は旧宅出て行って人を殺したことをばらされるのを恐れるだろう。貞則がまだそのことを人に教えていないのは、彼女がまだ森川次郎のオモチャでいるから。次郎がまだ彼女に飽きていないうちは、貞則は不本意だが彼女に手を出さないでいるつもりだった。静恵の目は恨みに満ちていたが、それ以上乞っても無駄だと分かったので、歯を食いしばって部屋に戻ることしかできなかった。川眺めの別荘にて。竹内佳奈は今日もたくさんの物を持って渡辺翔太のお見舞いに来た。翔太はソファで寝ていて、両目を腕で覆っていた。彼の周り、そして床にはたくさんの紙切れと写真が散らかっていた。おそらく、資料を読んでいて寝落ちしたのだろうと佳奈は思った。佳奈が翔太の傍に行き、散らかっているものを整理しようとした時、翔太は急に目覚めた。彼は慌てて体を起こし、資料を纏めて体の後ろに隠した。「来てたのか、起こしてくれればよかったのに」翔太は床に散らかっている資料を片付け始めた。佳奈は何も言わずに翔太を見て、彼が全て全部片付けるのをまってから口を開いた。「翔太さん、どうして私をそんなに警戒しているの?」佳奈は戸惑いながら尋ねた。「昨晩言ったろ?こんな揉め事に君を巻き込みたくないって」翔太は淡々と説明した。「一体どんな揉め事なのよ?」佳奈は思い切り聞き出した。「この前、会社の移転を手伝わせてくれたのに、今度は何で素直に教えてくれないの?私はあなたの敵じゃないのよ!教えてくれれば、一緒に対策を考えることができるじゃない。ちょっと今の自分を見てみてよ、もう廃人になりかけているわよ」「おっ、食べ物を持ってきたか。ちょうど腹が減ってきた。先に食べよう、な?」そう言って、翔太は佳奈が持っているものに手を伸ばした。しかし佳奈は一歩後ろに引いた。「翔太さん、私たちの仲って、そんなによそよそしいものなの?」「佳奈……」翔太は疲弊した様子で言った。「飯を食べてからにして、いい?」「もし私を本当
最終更新日 : 2024-12-07 続きを読む