「彼は、君の父に、母と離婚して渡辺家から出るか、そうでなければ監獄へ送ると脅かした。君の父は気の強い方で、責任感も強いから、自分が監獄に入れられようと、君たち親子を守ろうとした。君の母がそのことを知って、外祖父と大喧嘩をして、君の父を残してくれないと、彼と親子関係を解除するとまで言い出した。こうして、君の両親は一銭ももらえずに渡辺家を出た。最初の頃は、私達は君の良心に従って戻ってくるように勧めていた。しかしその後、私達が勧誘しすぎていたせいか、彼達は私達と完全に縁を断った。私達は5年間も人を遣って彼達を探していたが、全く手掛かりが掴めず、警察が家に来るまでは、君の父が亡くなったことを知らなかった」入江紀美子は思わず布団を握りしめ、渡辺裕也に父の死因を聞いた。「溺死だ」紀美子は目を大きく開いて、「つまり、自殺?」と聞いた。裕也は首を振りながらため息をつき、「私達は彼が自ら命を絶つような人だと信じられない。彼は自分よりも君たち親子を愛していた。だから彼は、どんなに辛くても君たち親子を捨てるようなことを、絶対するはずがない。」「自殺じゃないなら、犯人は誰なの?!」紀美子は焦って聞いた。渡辺夫婦は辛い顔色が浮かべ、「手掛かりはまだ何も掴めていない」と言った。「有り得ないわ!」紀美子は激昂した。「殺人事件であれば必ず手掛かりがある!或いは……」紀美子の話は途中で止まった。或いは父を殺害した人が大金持ちで、金を使って裏で権利を握っていた人なら……でないと手掛かりがないことはない。裕也は苦笑いをして、「ほら、その点は皆も思いついているが、証拠がない」と言った。紀美子は必死に気持ちを抑えて、「私の母は?」と尋ねた。裕也は固まり、目元が赤く染まった。彼は苦痛を帯びて泣きそうな声で言った。「紗月ちゃんは自殺をした。私達が彼女を見つけた時には、既に大量の睡眠薬を飲み込んでいた」長澤真由は涙がこぼれながら言った。「私達が紗月さんを見つけた時、既に君の姿は無く、君が一体何処に連れていかれたのかは分からなかった。君の身分が分かった後、翔太が君は孤児院にいたのを教えてくれた。君の両親の死は私達が一番悔しい出来事。あの時、私達がもっと強く彼達が家を出るのを止めていたら、或いは……」
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