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第566話 1人で背負わないで

 そう考えながら、森川晋太郎はテーブルに置いていた携帯と資料を持って、病室を出た。

帰る前に、晋太郎は杉本肇に残って入江紀美子の世話をするように指示した。

肇も外で二人の喧嘩が聞こえていた。

自分のボスの寂しい後ろ姿を見送って、肇は病室に入った。

彼には紀美子に言いたいことが沢山あった!

紀美子の前に来て、肇は厳しい声で言った。

「入江さん、何故晋様にあんな態度を取ったのか私は理解できません。

晋様は、あなたが病院に運ばれたのを知ってから、手元の全ての仕事を置いてここに来ました。

あなたがICUに入れられたのを見た時、一歩も離れずに外で待っていたのを知っていますか?

彼は食わず眠らずにあなたが目覚めるのを待ち、自らあなたの世話までしたのに、何故晋様にあんなことを言ったのですか?

入江さん、私には理解できません!」

「もういい」

紀美子は俯きながら、かすれた声で言った。

「あなたも帰っていいよ」

彼女はもう、愛人にはなりたくなかった。

晋太郎にも、二股をしてほしくなかった。

狛村静恵に関しては、彼女はもうそれ以上考えたくなかった。

肇は深く眉を寄せながら、彼女を問い詰めた。

「入江さん!一体どうしたのですか?晋様が、一体何をしたというのでしょうか?

あなたが会社を立ち上げたばかりの頃、晋様がどれほど助けてあげたのか、

どれほど、あなたの会社にちょっかいを出そうとした輩を退けたのか、あなたには分からないかもしれないが、

あなたの会社がこれほどの短時間で帝都の商業界に、石垣を固めたのは、晋様の働きがあってからのものですよ」

紀美子の表情に動揺が見えた。

彼が自分を助けた?

でも、それがどうしたというのか?

彼が助けてくれた分は、静恵が彼女にもたらした苦痛の償いになるのか?

彼女が思い出したくない過去の数々、全ては彼が静恵を甘やかしたことによるものだった。

今更どう受け止めろというのか?!

彼が未だに静恵と連絡を取りあっているのを、ただ見て見ぬ振りをしろというのか?!

彼には、自分が静恵の後ろ盾をしていることで、紀美子がこの先、どれほど苦しめられることになるのか分からないのだろう。

彼女はもうこれ以上背負いきれなかった。

「出ていって!」

紀美子は冷たい声で言った。

「入江さん!」

肇は往生際が悪く続けて問
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