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第0385話

綿の姿がロビーから消えると、嬌の声が耳に残った。「綿ちゃんも言ってたの。もしあたしたちが結婚したら、絶対に呼んでねって」

冷たい顔をしていた輝明の表情がさらに険しくなった。

呼ぶだって?彼女を呼んで、一体何をさせるつもりだ?式をめちゃくちゃにさせる気か?

嬌は輝明の表情をじっくりと観察していたが、彼が怒っているのは明らかだった。

嬌は唇を噛んだ。やはり彼は綿の反応を気にしている。

だからこそ、彼をしっかりと自分の手中に収めなければならない!

嬌が去ろうとしたその時、奥から看護師が電話をかける声が聞こえた。「桜井医生、佐藤旭という患者の薬がまだ残っています」

嬌はすぐに中を覗き込んだ。

佐藤旭?!

輝明もその名前を聞くと、すぐに反応した。

まさか、あの監獄にいた佐藤旭のことか?

「彼はどの病室にいますか?」輝明は身をかがめ、看護師に尋ねた。

看護師は輝明を見て、病室の番号を教えた。

輝明は嬌に「行こう」と言った。

嬌は眉をひそめ、彼の腕をぎゅっと握った。行く必要があるの?

「何を怖がってるんだ?」輝明は冷たく睨んだ。「彼が君に何かするわけじゃない。病気で重体なんだから」

嬌は一瞬戸惑ったが、輝明の後を追って歩き出した。

心臓外科病棟。

桑原看護士は、嬌が現れたことに一瞬驚いたが、すぐに病人を見舞いに来たのだと気づいた。

嬌は輝明のそばにいると、小柄で可愛らしい姿を見せていた。

佐藤旭の病室の前には二人の看護スタッフが立っていた。

輝明が身分を明かすと、彼らは彼を中に通した。

輝明と嬌が病室に入ると、佐藤旭の心拍数が急激に上がった。

嬌はモニターに映る血圧と心拍数の上昇を見て、内心で舌打ちした。臆病者め!

ただ嘘をつくだけのことなのに、何をそんなに怯えているんだ?

それにしても、この男はしぶとい。二度も殺そうとしたのに、どちらも助けられてしまった。

佐藤旭は嬌を睨みつけ、拳を固く握りしめたが、言葉を発することができなかった。

この卑劣な女、彼女に口止めの約束をしたのに、それでも彼を殺そうとしたのだ!

輝明は佐藤旭が嬌に向ける敵意に気づいた。

嬌は怯えたふりをして、輝明のそばに隠れた。「明くん……」

「こいつか?」輝明は嬌に尋ねた。

嬌は頷いた。「そう、あの時あたしの背中にナイフを突き刺して、海に投げ込んだのは
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